カウンターの距離で伝えたい。
飲食の道を志したのは15歳。大野彰人さんは、それから一途にこの業界に身を置き、割烹、居酒屋で修行を重ねた。31歳で両川をこの地に創業し、今年で9年目を迎える。「店をするとき、お酒とお料理を楽しむというコンセプトは持ってたんです。ただ、多くの酒を置く気持ちはなかった。ワインの知識もさほど無かったし、どんな料理と合うかわからない。カクテルが上手なわけでもなかったので。ただ日本酒が好きだったので、勉強しましたね」。小ぢんまりとした店内の東側の壁一面に書かれた地酒名。通がこぞってこの店を訪れる理由の1つだ。
蔵元の思いが伝わる
日本酒をセレクト。
全国津々浦々の蔵元から届いた酒は、すぐ開けず、1週間から10日ほど、寝かせて落ち着かせてから開栓される。「商品によっては温度帯も冷蔵や冷凍など、合わせて保管します」。奥には、10年近く寝かせた日本酒もあるのだとか。
「純米酒クラスで生酒を中心に選んでます。それから、あまり出回ってないローカル色が強い地酒が多いかな」。京都では蒼空で名高い藤岡酒造や、出雲富士で有名な島根の富士酒造、創業当初から、自分と同じく若くして信念を貫く蔵元たちとよく励まし合ったという大野さん。カウンターの距離感で、蔵元の思いを告げながら、美味い料理とともに客へ差し出す。「500~600本しか製造しないものもあるんです。ものすごい少量でしょう。そのうちの数本がこの店に来ている。大切に作り手の思いを伝えていかなければと思いますね」。
きっちりと継ぎ足す。
それがオリジナル。
なめろうの味噌をはじめ、肉や魚をからめる醤油だれ。両川の料理には、創業時から9年間「継ぎ足し」されたものが多く使われる。「どこにでもありそうな献立なんですが、継ぎ足していくと重層感が出てくるんです。そこでしか味わえない奥深い旨味と言うんですかね。また同じお客さんが来られたとき、同じ美味しい味だったら、来た甲斐があるんじゃないかと思って」。きっちりと継ぎ足して、失敗はできないというプレッシャーを持ちながら、酒に合う料理を仕込む。これも大野さんのこだわりである。
両川の突き出しは必ずおつゆが出されるのも面白いところ。献立の多くに使われる出汁に、その日の具材を入れて、まず客に味わってもらいたいのだそう。「“うまいな、これ”って、出汁が気に入ってもらえたら、他の料理もきっと満足してもらえる。そう思っています」。
最後にこの店の名物料理,「煮込み」の出汁を味見させてもらった。一見するところ、粕汁のようにも見える濃厚さだ。野菜や肉の味が溶け出し、なんとも美味いもので、もちろんこれも9年来の継ぎ足しのもの。「これが、日本酒に合うんですよ」。日を細め、満面の笑みで幸せそうに大野さんはそう話った。
ひと塩京料理 両川
TEL
075-222-1441
ACCESS
京都市中京区室町通押小路西入ル蛸薬師町293
最寄りバス停
新町御池
営業時間
18時~23時半(L.O.22時45分)
定休日
日・第1・3月(月が祝日の場合は日営業)