ヤノベケンジの世界から語る現代アート
ウルトラファクトリー
2008年にヤノベケンジが企画し京都芸術大学(旧:京都造形大学)に開設した「ウルトラファクトリー」。学年も学科も問わず全学生が利用できる造形技支援工房だ。ヤノベを筆頭に、やなぎみわ、名和晃平など第一線で活躍するクリエイターを招いてのプロジェクトに学生が参加し、一緒に制作活動に携わる。そこから、世の中のトップクリエイターがなにを思考し、どんなものづくりをしているのか。その発信方法、結果なにが生まれるのかまで。アートの制作活動に関わるそれらすべてを学べる場所になっている。学校の中の工房だが、まるでひとつの社会における開かれた場所であるかのような仕組み。「ウルトラファクトリー」の誕生には、ヤノベのものづくりに対する姿勢や学生時代からの経験が込められている。
当初、京都府亀岡市の工房をべースに作品を作り、全国で多数の展覧会を開催していたヤノベは、大学で教鞭を取ることを依頼されても興味がわかなかった。大学は現役をリタイヤした後に行くところ、現場のアートシーンの中で活動を続けていてこそ自身もアーティストでいられるという思い。また、「メガロマニア」展(2003)以降、金沢21世紀美術館での「子供都市計画」(2004)や、「取手アートプロジェクト」(2006)のように、若い学生がヤノべの制作活動を手伝うことも増え、若者の才能は制作現場を体験することで育っていく、という現場主義の思いもあった。
しかし一方で、学生と共に制作した活動をもっと多くの人に伝えたい、また、その短期経験を若い学生のために長期的なものにできないか。そんな気持ちも芽生えていた。そんなとき、椿昇氏を通じ、京都芸術大学から依頼されたのが、全学生が利用できる「共通工房」作り。大学からのさしたる要望はなく、今までヤノベが積み重ねてきた、学生との制作姿勢に教育的な可能性を感じ、すべてを任せたいという依頼だった。振り返れば、ヤノベも学生時代、まだ若い頃の中原浩大、野村仁など錚々たる先輩や教授のアート活動に関わり、手伝わせてもらった。それは授業の課題をこなす以上に吸収するものが多く、その時の学びはヤノベが作家の道を志したきっかけになっている。昔でいう徒弟制度のような、いわば師匠と共に制作する貴重な経験。これをヤノベ独自のアプローチで教育の中にシステム化できないか。芸術教育のある種改革に挑戦したいという思いが生じ、ヤノベは「共通工房」計画を引き受け、大学で教鞭を取ることになる。さらに2010年からはコンペ形式のアワード&展覧会「ウルトラアワード」も開催。後に、長谷川祐子、片岡真実らトップクラスのキュレーターを招聘し、テーマを設けたコンペから学生を選抜した上で、展覧会を開催する仕組みを作り上げた。2017年からは大学全体の選抜展「KUA ANNUAL」に継承され、大学内でのプレビュー展に加え、東京で展覧会が開催されている。大学院時代、ヤノベ自身が味わった《タンキング・マシーン》(1990)の受賞と翌年の大々的な個展開催。作家を目指す若者が、プロフェッショナルなアーティストとして背中を押される経験に必要性を強く感じ、発案した。
「ウルトラファクトリー」は、その名の通り超越的なクリエイターと学生が、超越的な作品を作る、クリエイティブなエネルギーに満ちた工房だ。春にはクリエイターが緊張感をたたえた5分程度のプレゼンをし、学生は自分が参加したいプロジェクトを決める。現代アート作家だけに留まらず、劇団四季、ビートだけし、吉本新喜劇とのコラボなど、多様なプロジェクトが毎年持ち込まれ、参加者の中から第一線で活躍するアーティスト、デザイナー、ギャラリストなどが誕生している。そこに行けば才能が開花するかも、なにか新しいものが生まれるかも。ヤノベが描いた共通工房は、そんな可能性に満ちた魅力ある場所に成長している。
ヤノベケンジ
PROFILE
現代美術家。京都芸術大学美術工芸学科教授。ウルトラファクトリーディレクター。1965年大阪生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。
1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作。幼少期に遊んだ大阪万博跡地「未来の廃墟」を創作の原点とし、ユーモラスな形態に社会的メッセージを込めた作品群は国内外で高評価を得る。1997年放射線感知服《アトムスーツ》を身にまといチェルノブイリを訪れる《アトムスーツ・プロジェクト》を開始。21世紀の幕開けと共に、制作テーマは「リヴァイヴァル」へと移行する。腹話術人形《トらやん》の巨大ロボット、「第五福竜丸」をモチーフとする船《ラッキードラゴン》を制作し、火や水を用いた壮大なパフォーマンスを展開。2011年震災後、希望のモニュメント《サン・チャイルド》を国内外で巡回。2017年旅の守り神《SHIP’S CAT》シリーズを制作開始。
https://www.yanobe.com/