最強の相棒と共に
ナポリピッツァとの出会いは23歳のときだった。感動のあまり、一人で4枚、ペロリと平げたことを今も鮮明に覚えている。それから9年後、その青年は自身の店「est」を祇園にオープン。ピッツアイオーロ、つまりナポリピッツァの職人として大理石の薪窯(まきがま)の前に立つ。
モラトリアムから一転。
人生を変えたナポリピッツァ
オーナーの東原涼さんは現在34歳。通っていた京都産業大学の近くにあるフレンチレストラン「エヴァンタイユ」でのバイトを通じて料理に興味を持つようになった。そんな折、冒頭の運命の日を迎える。
漠然とシェフにイタリアへの憧れを話したところ、23歳の誕生日に北山のピッツェリア「フォルム」に連れて行ってくれたのだ。宅配ピザしか食べたことがなかった東原さんにとって、職人が薪窯で焼き上げるナポリピッツァは未知の味だった。同時にこの経験が「やりたいことがない」と卒業後も就職を先延ばしにしていた彼の背中を力強く押した。
そこからは一気呵成。すぐさま、働き口を探すためナポリに飛んだ。一時帰国して就労ビザを取り、またナポリへ。25歳からおよそ1年に及ぶ修行で学んだことは、味を決めるのは焼き手であるということ。それともうひとつがピッツァのたたずまいについてだった。
「丸く形が整っていて、縁もきれいに立っている。見た目が美しいピッツァは、味もおいしい」。
帰国し、鎌倉の名店「ピッツェリアGG」に就職。その時は想像もしていなかったが、最大の試練が待っていたのは実は日本だった。同店は、ナポリよりも厳しかった。1枚1枚に全神経を注ぐ技術はもちろん、現地の食文化をどう日本に落とし込むか。日本でナポリピッツァを伝えるピザ職人の生き様を目の当たりにした。
ピッツァ職人とベテランシェフ、
ふたりだからできること
2019年には世界を舞台にした「ナポリピッツァオリンピック」の日本代表選考で予選1位通過を果たした東原さん。世界から食通が集まる祇園に店を構えたのはその翌年だ。
実は、店にはもうひとり料理人がいる。寺町五条にあった「オステリア ヴェント」の元シェフ、山田重嗣(やまだしげつぐ)さんだ。山田さんは一時は自営業から退いていたが、東原さんのピザの味に惚れ込んで、一緒に店をやると決めた。パスタや単品の経験のある山田シェフとの出会い。ピッツェリアにトラットリアの要素がプラスされ、東原さんの表現の幅はうんと広がった。
「経験も豊富な山田さんの料理哲学が混ざることで、ひとりでは作れない新しいピッツァができあがる」。
これまでは孤独な戦いだった。でも、山田シェフという最強のバディを得た東原さん。現地のスタンダードを踏襲しつつも、両人のコラボから生まれる新作にも力を入れる。美食の街、祇園発の「美しいピッツァ」。世界に誇る一枚だ。
est
TEL
075-748-1911
ACCESS
京都市東山区祇園町北側347-147 1F
最寄りバス停
祇園
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ランチ11時半~14時 LO、コース17時半~18時入店、アラカルト17時半~22時半LO
定休日
日・祝