地域の豊かな暮らしを考える活動拠点「京都市下京いきいき市民活動センター」は、地元住民だけでなく「京都が好き」な学生や社会人も呼び込んで、新たな価値や魅力を発見する活動を行っている。名付けて「ともにすごすツアープロジェクト」。地域に眼差しを持った個人と一緒に、ただひたすら時間をすごすという、ありそうでなかった画期的なツアーを紹介したい。
地域で暮らす「人」にフォーカスするツアー。
「京都市下京いきいき市民活動センター」は、「地域に開かれた公共施設」として市民活動相談や交流イベントを行い、「地域の声を受けとめる公共施設」として子ども達や高齢者向けのコミュニケーションの場を提供、さらに「地域に変化をもたらす公共施設」として、よそから来た人が新しい価値や取り組みをもってくることにも注力する。
たとえば京都市内の大学生が下京をフィールドにまちづくりを実践する「下京ローカルグッド」プロジェクトなど、学生の力を地域に持ち込み、それにより地域が自らの力を発見するキッカケとなっている。
下京いきいき市民活動センター長の吉田さんはこう話す。
「多くの人に関わってもらうことで、住民自身も気づかない視点や物語が発見・発信できる。そうしたつながりが、持続可能なまちづくりには必要なのです」。

プロジェクトの1つ「ともにすごすツアー」はそんな視点から生まれた。
テーマは「地域に眼差しをもった“個人”と一緒に、ただひたすら時間をすごす」。
そのユニークなツアーを体験した参加者からは「こんなに魅力的な地域だったと知らなかった」「遠い世界だった伝統産業を身近に感じる」などの感想が相次いでいる。

京都市下京いきいき市民活動センター長
まちとしごと総合研究所 事業コーディネーター/ともにすごすツアープロジェクトマネージャー
吉田隆真さん
PROFILE
1985年大阪市生まれ、奈良育ち。大学卒業後、大手旅行代理店に就職。退職後東南アジアを放浪、大学図書館勤務などを経て現職。ともすごプロジェクトにおける目利き役。まちへの想いをもった一人ひとりの営みに関心があり、それをどうしたら真の共感に繋げられるかという視点で、プロジェクトを立ち上げた。
正月にいただく煮凝りを一緒につくり、文化を発信。
ツアーの実行役はナビゲーターとコーディネーターだ。ナビゲーターは「地域に眼差しを持った個人」で、その人が経験したことを語る役。現在、コーディネーターはプロジェクトメンバーで構成され、参加者とナビゲーターをつなぎ、プログラムの作成や募集、当日の司会・進行ほか、ツアーに解釈を与える大事な役割ももつ。
たとえば「煮凝り(にこごり)一緒につくりませんかツアー」では、崇仁地区で正月によく食べる、ホルモンの煮凝りのつくり方を2日かけて教わった。ナビゲーターは近隣の大学に通い、たまたまおばあちゃんと出会って煮凝りに惚れ込んだ女子大生だ。
コーディネーターの藤本さんは解説する。
「旅行者のイメージでその地を旅するのではなく、地域に誇りを持つ個人から、その地の魅力を発信したかった。観光客と住民が、その地の暮らしに深い眼差しを向けて交流すれば、豊かでポジティブなイメージが生まれるかもしれない。そんな実験の場が、このプロジェクトなのです」。


まちとしごと総合研究所 副業型研究員
EKKYO/Local Community Organizer
藤本直樹さん
PROFILE
1995年京都市生まれ。ともすごプロジェクトでは、地域コミュニティツアーの企画・監修を行っている。持続可能な観光の理論と実践の往還をテーマにキャリア形成。本業、副業、研究の3足のわらじを履くことで、観光セクター、社会的セクター、大学教育の”橋渡し”がライフワーク。 現在は、京都市を拠点に、サステナブル・ツーリズムの発展形とされている再生型観光(リジェネラティブ・ツーリズム)に関連するプロデュースを本業とする。近著には「リジェネラティブ・ツーリズム研究の課題と展望(観光学評論、2024)」等がある。
友だち目線で、伝統文化やまちのありかたを考える。
「京小紋・兼松染色の職人と時間をすごすツアー」も、「人ありき」の内容だ。
テーマは「職人さんの日常に浸かろう」。ナビゲーターは兼松拓生さん本人。高度な染色体験をした後で、兼松さん行きつけの和菓子屋さんのお菓子を食べ、お喋りしながらテレビゲームに興じた。職人のおやつタイムや息抜きまで共に過ごすのだ。時間の経過と共に、参加者は兼松さんと友人のようになり、「こんな職人が住む、このまち」に好感を抱きはじめる。

コーディネーターの池田さんは語る。
「単に支える、学ぶだけのスタンスでは、伝統文化の衰退は止められません。染色という伝統文化を自分事として捉えるためにも、もう一歩踏み込んで、職人さんと友だちになる。そうすることで、ものづくりへの共感も生まれ、染色業界全体を盛り上げようとする兼松さんの思いもリアルに伝わってくる。伝統工芸が大好きな私としては、こういう企画をどんどん広めていきたいです」。

まちとしごと総合研究所 副業型研究員
EKKYO/Craft Community Organizer
池田瞬介さん
PROFILE
1990 年京都市生まれ。ともすごプロジェクトでは、伝統工芸の職人をめぐるクラフトツアーの企画を行っている。大学時代、ガイドサークルで修学旅行の引率などに明け暮れる。大学卒業後、鉄道会社に入社。現場勤務を経た後、主に経営企画部門に従事。CSR部門在籍時に「多様な人材が多様なアプローチで地域に関わることの重要性」を感じ、本業の傍ら、副業や市民活動を通じて京都や滋賀のまちづくりに携わる。当研究所では、伝統工芸に関わる場づくりを企画・推進中。2児の父。
建林さんは、車イスユーザーの鳴海雅也さん(山科区在住)がよく行く「梅小路西にある商店街を案内するツアー」をコーディネートした。

鳴海さんがナビゲーターとなり、参加者らは空の弁当箱を片手に商店街を回遊。各店で惣菜を購入してオリジナル弁当を作成、午後はかしわ屋で焼き鳥づくりや、魚屋で三枚おろしを体験した。
「どの商店街の人も、気軽に声をかけてくれ、私のさまざまな企画や考えを受け入れてくれるのです。こんなあったかい人たちがいる商店街をたくさんの人に紹介したかった」と、参加者の前で胸を張る鳴海さん。
当初は車イスユーザーの視点を活かしたプログラムを構想していたが、鳴海さんと何度も打合せを重ねる中で、彼の商店街への愛着が伝わるようなプログラムに変更。それが全面に出たツアーは鳴海さんの見事なナビゲートのもと、大盛況に終わった。
建林さんは、コーディネーターの役割を「ナビゲーターが本当に発信したい“想い”(ナラティブ)を引き出し、そのナラティブを上手く参加者に伝えられるツアーにすること」だと言う。


和歌山大学大学院 観光学研究科
下京いきいき市民活動センター/学生スタッフ
建林朋香さん
PROFILE
2002年奈良生まれ。ともすごプロジェクトでは、ローカルツアーの企画・進行を行なっている。地域の「をかしなもの」を求めて、日々その辺をうろついている。「下京区は、生活とともに身近な文化が発達し、今でもその文化が生きているところが魅力です」。
オーバーツーリズムを考慮し「ともすごツアー」は、定員は5人ほど。地域への深い共感を生むことためにも少人数制で進めている。2025年度以降も続々ツアーが開催される予定。申し込みはお早めに。
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下京いきいき市民活動センター
TEL
075-371-8220
ACCESS
京都市下京区上之町38番地
営業時間
月・水~土 10:00~21:00(予約受付時間 ~20:30)、日10:00~17:00(予約受付時間 ~16:30)
定休日
毎週火曜日・年末年始