100種の酒より1人のバーテンダー
酔うのが目的なら居酒屋でも、なんなら自宅で一人酒でもいい。でも、わざわざバーに足を運びたくなるのはなぜか?その答えをバーフェイクの木下秀治(きした・しゅうじ)さんが、ライターKに教えてくれた。
「100種のお酒を飲むよりも、1人のバーテンダーと話すほうが、ずっとお酒の楽しみ方がわかりますよ。信頼できるバーテンダーを、ぜひ見つけてください」。
酒の案内人、バーテンダー。1980年生まれの木下さん、彼はこの仕事にまっすぐたどりついたわけではない。
転々と職を変えた20代。
30代でバーに出会う
木下さんは、祖母の住む伏見で育った。哲学書『ソフィーの世界』を愛読し、佛教大学教育学部に進んだ。倫理の高校教師を目指すが、学校で教えるカリキュラムに違和感がぬぐえず、その道を進まないと決める。在学中は世界中を旅した。
卒業後の20代は、各地を転々とする。京都の老舗和菓子店の製造部門、横浜の雀荘、東京の漫画編集プロダクション、大阪ではパチンコ屋とゲーム制作会社、京都の製箱メーカー他。30代でWEBデザイナーとして独立するが、「パソコンに向かうだけではつらい。人と話したくなって」、夜、沖縄料理屋でバイトを始める。その後、自分が客として通っていたバーが人手不足と知って、手伝い始めたのがこの仕事に就いたきっかけだ。8年間働いたのち、自分の店を構えた。
「どんな形であれ、いずれ自分は独立すると思っていたから、自然な流れでした。どこか、つねに自分がいられる場所をつくりたかった」。
会話の「釣り糸」が揃った
バーの心地よさ
アメリカンウィスキーに特化して、約500本を揃えるバーはめずらしい。しかし木下さんにとって、お酒は会話の釣り糸のひとつに過ぎない。
「釣り糸って、会話のフックのようなもの。ネコ、サッカー、そしてプロレス。この店にはいろんな釣り糸を準備しています。会話から相手を知るのが楽しい」。
一線を越えずに、お互いがお互いを知り、会話を交わす心地よい空間。それが木下さんの考える理想的なバーだ。木下さんはなぜ、その距離感で人と関わりたいと思うのだろうか? 木下さんは胸の内を教えてくれた。
「人を好きになる方法をずっと探し続けて、バーをしている気がします。すべての人間が尊敬できる存在だと信じている。でも一見ではわからないから、こうしてバーで釣り糸を垂らし、その人を知り、好きになりたいと願うのです」。
カラリ。オレンジ香が漂うウィスキー、ソーダ割のグラスが空いた。幾多の瓶に目を泳がせながら、案内人の物語を聞くうちに、心がなめらかにほぐれて、饒舌になった自分に気づく。「どうやら、私も釣り糸にかかったらしい」……。またひとつ、中書島に心地よいバーを見つけてしまった。
Bar fake (バー フェイク)
TEL
090-3617-0510
ACCESS
京都市伏見区東柳町502
最寄りバス停
中書島
営業時間
18時~24時L.O.
定休日
不定休