和菓子には伸びしろがある
きんつば、どら焼き、みたらし団子に豆大福。ショーケース内の商品が、文字通り「飛ぶように」売れていく。自分用のおやつを買い求めるご近所さん、評判を聞きつけてやってきた観光客……。皆、真剣な表情で商品を選んでいる。
オープンから2年で、誰もが認める繁盛店となった「まるに抱き柏」。西森啓介さん37歳。京都屈指の菓舗で鍛えられた若き和菓子職人が独立して開いた店だ。
京菓子と朝生菓子、
伝統と日常。
両方の技術を糧に独立
香川県出身の西森さんは、パティシエになるべく大阪の製菓学校へ入学した。
「でも西洋菓子は香りが強い。強烈な香りが続くのが合わなかったんです」。
鋭敏な嗅覚をもつ西森さんは、和菓子職人を目指すことに決めた。
「和菓子は手で丸めるなど指先を使う作業が多く、香りもきつすぎない。感覚的にしっくりきました」。
その後、和菓子職人として異なる2軒の老舗で研鑽を積む。
5年半在籍した「」では、いわゆる京菓子、すなわち四季の移ろいを表現し、茶席でも使われる「」の技術を磨いた。工場長を任されるまでになったが、26歳で退職。豆大福で有名な「出町ふたば」へ移る。
「独立を見据え、『朝生』の勉強が必要だと思って」。朝生とは朝生菓子の略で、「その日の朝に手作りする菓子」のこと。日常よく食べる団子や餅菓子が多い。
「ふたばでは京菓子とは違う、きねつき餅の技術を学びました。製餡や包餡も、ふたばでの経験が土台となっています」。
こうして京菓子と朝生、いわば「よそいき」と「日常」の両方と向き合った西森さんは、満を持して独立へ向け動き出す。ふたばで修業して、8年目のことだ。
伝統を背負わないからこそ
「伸びしろ」を埋めていける
西森さんが作るのは、長く食べ継がれてきた王道の和菓子だ。朝生の代表格「大福、団子、饅頭」の3つを柱に、季節感のある上生菓子が店頭に並ぶ。
「煎茶でもコーヒーでも、何にでも合う気軽なおやつ。日常に寄り添う、親しみやすい和菓子を多くの人に届けたい」。
しかし、伝統的な製法をやみくもに踏襲するわけではない。というのも、時代とともに素材が増えて、機械も進化した。
「素材が変わり、機械も増えれば、作り方も変わるのが自然ですよね」。
和菓子には、もっと伸びしろがある。そう考える西森さんは、和菓子に限らずいろんなジャンルの料理人から刺潡を受けている。味や香りの組み合わせや発酵などの技術、郷土色豊かな食材……。
「同世代の職人から得たヒントを、いかに和菓子に落とし込むか。伝統を背負っていないから、できる挑戦があります」。
流行の「映え」や見た目を追求するのではなく、王道のお菓子を進化させるための努力を惜しまない。西森さんは、和菓子の未来を切り拓いていく職人だ。
まるに抱き拍
TEL
075-748-9650
ACCESS
京都市右京区西院平町21
最寄りバス停
西院難町、西大路四条
営業時間
9時~18時
定休日
火、不定休