返ってくる丼が解答用紙
七条通に掲げられた大きな看板が目印だ。2008年、三条御前で開業し、2011年に梅小路公園前へ移転。その際、店名を「こぶ志」から「拳ラーメン」へと改めた。以前は熱心なラーメンマニアが足繁く通う店だったが、移転を機にメニューを再考。コアなラーメンファンだけでなく、観光客にも人気の一軒となった。
人気の居酒屋から
一杯で勝負のラーメン屋に
頑固一徹、寡黙な職人のように見える店主・山内健吾さんは10代の頃から和食の料理人としてキャリアを築いてきた。34歳で独立。円町に小さな居酒屋を開いた。和食の料理人だけあって食材を重視、中央卸売市場にも頻繁に通っていた。器にも凝って、すぐに常連がつく人気店となる。しかし山内さんは「ラーメン屋をやってみたい」と思うようになる。
「その頃、店で出していた魚出汁のラーメンが好評だったんです。あと、ラーメン屋という一品勝負っておもしろいなと。メニューの多い居酒屋では、自分が食べてほしい料理に必ず注文が入るとは限らないから、ちょっとフラストレーションがありました」。
そうして三条御前でラーメン屋を開いた。鯛の塩釜焼から着想した塩釜チャーシューは、レアチャーシューのハシリとして評判を呼んだ。瞬く間に人気ラーメン店の仲間入りをした「こぶ志」は、オープンから3年後に移転。食材調達の便利さから、中央卸売市場に近い今の場所を選んだ。新たに京鴨やにぼし、羅臼昆布といった和の食材を取り入れたラーメンを考案し、人気を不動のものとする。2020年からはミシュランのビブグルマンに連続して選出されるほどになった。
人気のラーメンに
そっと忍ばせる気遣い
「ラーメンっておもしろいですよ。いい大人がたった一杯のために、わざわざ遠くから足を運ぶ。そういう『人を惹きつける力』があるんだから」。
山内さんは、その「たった一杯」に、料理人としての矜持(きょうじ)を込める。おいしさはもちろんだが、そこには山内さんならではのこだわりもある。それが「ラーメン好きに野菜を食べさせること」だ。
山内さん曰く、ラーメン好きには野菜嫌いが多い。ただでさえ塩分や油分が多いラーメンばかり食べていては、健康を損なうおそれがある。そこでトッピングの赤玉ねぎに少し茗荷(みょうが)を混ぜたり、味噌ラーメンに蕗味噌(ふきみそ)を使ったりと、あの手この手で野菜を食べさせようと工夫しているのだ。まるで、ハンバーグのたねに細かく刻んだピーマンを忍ばせるおかあさんのように……。
「返ってくる丼が解答用紙です」。
そう話す山内さんの言葉には、自信がみなぎる。満点の解答用紙の束に裏打ちされた、揺るぎない自信。多忙を極める厨房では寡黙な山内さん。直接交わす言葉でなく、ラーメンに込められたやさしさを、ぜひ味わってみてほしい。
拳ラーメン
TEL
075-351-3608
ACCESS
京都市下京区朱雀正会町1-16
最寄りバス停
七条壬生川、梅小路公園・JR梅小路京都西駅
営業時間
11時半~14時半、18時~22時
定休日
水