若者の才能を生かすための大家業
中央卸売市場は目と鼻の先。今日もまだ夜が明ける前から建物の前を市場関係の人々や運搬車が忙しなく行き交う。ここにあるのが「河岸ホテル」。現代アート作品が壁にかかるロビー、階下に降りると、スタジオでは芸術家たちが創作を続ける音が響く。このホテルは、芸術家のスタジオを併設する点が、新しい。
オーナーかつプロデューサーの扇沢友樹さんは自身を「不動産脚本家」と名乗る。
以前は京都青果合同株式会社の女子寮だった建物。1日5組限定のスーペリアルームは最上階の5階に。連泊や仕事での滞在に適したエコノミールームを4階に備える。一泊1名6,700円~。
苦学生を経て、つかんだ夢
豊かな街を創生するために
扇沢さんは、将来は事業を興すという夢を見据え、上賀茂の実家から近い京都産業大学の法学部に進学した。しかしその半年後、状況は一転する。リーマンショックの煽りで父の会社が倒産したのだ。
それからは授業料を稼ぐために大学とバイトの往復。そんなに苦労をしてまで大学に行くからこそ、勉学に打ち込んだ。不動産業界での起業を目指して在学中に宅建の資格を取得。卒業後は町家を改装したシェアハウスを展開した。
不動産業界を選んだ理由は、この先、著しい人口減によって生まれる余剰の不動産の活用に可能性を感じたからだった。扇沢さんは、不動産にストーリーを見出すのが得意だ。
「建物の立地の背景と、必要としている人を定義して、あとはその建物がどうしたらそこで活躍し続けられるかを読み解きます。脚本を書くかのように活用法を考えています」。
中央卸売市場は朝から晩まで騒々しいぶん、騒音が出る創作活動に寛容だと気づいた。扇沢さんはここに「芸術家のためのスタジオを併設するホテル」という脚本を描いた。
レジデンスの大家として
才能をバックアップ
そうして2019年に誕生した「河岸ホテル」。元社員寮という構造を生かし、スタジオ以外にもアーティスト用のレジデンスと一般向けの客室を設けた。芸術家と宿泊客が交流できるホテルは類を見ない。扇沢さんの発想からは、土地や建物、そして何よりそこに集う人たちへの敬意と愛情が同時に伝わってくる。
「河岸ホテルの本質は、ホテル業じゃない。現代美術の作家の才能を生かすための大家業(おおやぎょう)です」。
河岸ホテルは、エリア開発という観点でも注目を集める。「エリアを活性化するには、優秀な才能を誘致することが重要」と扇沢さんは断言する。これまで35名のアーティストが河岸ホテルで過ごした。現在は8名が長期滞在中だ。
「うれしいのは、僕らがこういう出会いの場をつくっている中で交流が生まれ、刺激を受けた芸術家がいることです。大きな利益がある事業ではありませんが、確実にいい方向に影響を与えている。不動産脚本家として、幸せを感じます」。
扇沢さんは立地を起点に考えを深め、行動してきた。多くの若き才能が集まる河岸ホテルがある街の未来は、明るい。
KAGAN HOTEL -河岸ホテル-
TEL
050-1741-0627
ACCESS
京都市下京区朱雀宝蔵町99
最寄りバス停
七条壬生川、七条千本
営業時間
チェックイン16時~/チェックアウト11時
定休日
日・祝