テニスがしたくて、生き方を変えてみた
客の選んだ生豆をその場で焙煎。のんびりとした住宅街の一角で、焼きたての自家焙煎コーヒー豆を販売する西院ロースティングファクトリー。その工場主ならぬ店主・山下洋祐さんは、新卒で就いたセールスの仕事に嫌気が差し、24歳でバー業界へと転職。神戸、沖縄、東京と日本各地でバーテンダーとしての腕を磨き、35歳で大手酒造メーカーに転職して飲食業のコンサルタントとして活躍。各地を転々としながら、華やかなビジネスキャリアを築いてきた人物だ。

コーヒーとの出会いを機に、
スモールライフの実現へ
そんな山下さんがコーヒーに目覚めたのは、大手酒造メーカーに勤めていたときに訪れた、アメリカでのこと。いわゆるコーヒーのサードウェーブに沸くアメリカで「浅煎りのすっぱいコーヒー」に出合い、衝撃を受けた。やがて日本にも波及するであろう第3次コーヒーブームと、当時懇意にしていた自宅近くの小さな自家焙煎コーヒー店。その2つが頭の中で結びついたとき、コンサルに長けたビジネスマンとしての嗅覚が反応した。「生豆の焙煎って、新しいビジネスになるのでは?」。
ちょうどその頃山下さんは40歳、生き方そのものを変えようとしていた。というのも、学生時代以来、10数年ぶりに再開したテニスにすっかりハマってしまい、「思いっきりテニスを楽しみながら、心穏やかに暮らしたい」という思いが抑えきれなくなっていたのだ。
「自分なりの働き方改革です。ここらで生き方を変えてみようと思ったんです」。

容赦ない酸味が襲う、美味なるレモンスカッシュ350円。
働き方を変えて手にした
「足るを知る」生き方
職業柄、ソムリエ資格を得ていた山下さんは「コーヒーの味や香りの表現は、ワインのそれと重なるところが多い」と不敵に笑う。好みをじっくり聞いた上で、客一人ひとりに向き合う姿は、まさに「コーヒーソムリエ」といったところだ。
6席しかないカウンターで悠然とコーヒーをドリップしながら山下さんは言う。
「していることはバーテンダー時代と変わりません。変わったのは価値観。身に余るお金はいらないし、常にフルスロットルでいる必要もない。沖縄のホテルでバーテンダーをしていたときに知った『なんくるないさ』の精神に感化された部分もあるのかな」。
山下さんが繁華街からアクセスがいいわけではないこの場所を選んだのも「隣にテニスコートがあるから」。最も売上が見込める日曜日に店を開けないのも、商売よりテニスを優先したいからだ。隙間時間を見つけてはコートに通い、熱心にラケットを振る。テニス仲間との交流も楽しくて仕方ない。46歳、「今が自分のベストじゃないかな」と人懐っこい笑顔を見せる山下さん。なんとうらやましい生き方だろう。自分らしく生きる山下さんからパワーを分けてもらうため、この店を訪れる人も多いに違いない。

西院 ROASTING FACTORY
TEL
075-323-1920
ACCESS
京都市右京区西院日照町60-1
最寄りバス停
四条中学前、葛野大路高辻
営業時間
10時~18時
定休日
日