80歳になっても店に立ちたい
国際会館駅の東側にある1970年創業の洋食店「グリルじゅんさい」。ごはんがすすむ昔ながらの手作りの味で、多くの人を魅了し続ける人気店だ。厨房を守る服部聖一さんは2代目。コックだった父が母とともに始めた店を引き継ぎ、20年以上になる。
料理の世界では10代で修業を始めることが多いが、聖一さんは工業高校を経て京都工芸繊維大学で機械工学を学んだ。卒業後は見習い調理師として金沢のホテルに就職。人より遅いスタートを切った。
「特にやりたいこともなかったので、店を継ぐ修業をしようと考えました」。
年下の先輩たちに叱咤されながらフランス料理の基礎を学んだ。26歳で家族で営む洋食店の一員となった。

調理以外の雑務にも
楽しみを見出す
創業者の父が、感覚だけに頼っていた味付けを数値化したり、食材や調理法の見直しを行ったりと、聖一さんによってなされた「改革」は少なくない。
「飲食店の経営はおもしろい。仕入れ先の選定、メニューのデザイン、ウェブの管理……調理以外の仕事がいろいろあって、僕はみんな好きなんです」。
おいしい料理を提供するための「仕組み作りが楽しい」。そう話す聖一さんは、機械工学を学んだ理系の表情をしている。
そんな頼もしい跡継ぎを得て、店の将来は安泰と誰もが思った矢先、事件は起きた。父が突然引退を宣言し、店を去ってしまったのだ。
思わぬ事態に店は当然、混乱した。しかし、聖一さんが絶大な信頼を置く母・美津子さんがいて、店の味と経営は守られた。今から10年前、聖一さんが突然の病に倒れて入院したときも、美津子さんは一人で厨房をまわし続けた。
「人気のエビクリームコロッケは母が考案したようなものだし、仕込みは母が担当しています。母がいなければ2回ぐらい店は潰れていました」。
平たんではなかった道のりを振り返る。

心からホッとできる
おうちごはんのような料理を
どちらかというと人付き合いが苦手な性格の聖一さんは、「おいしい」と声を掛けられると「気を使われてるのではないか」と疑心暗鬼になってしまうと話す。
「食べ終わったとき、自然と『ふうっ』と声が漏れる。そんな、心を解きほぐす料理を作っていきたい」。
「特別な料理じゃない、おうちごはんの延長のつもり」。何度もそう繰り返す聖一さんだが、彼が作る「特別じゃない」料理は、食べる人にとって「特別な輝き」を放つ料理であるのは間違いない。丁寧な下処理、仕込みに何時間もかけるソース……それを「特別じゃない」と言い切ってしまう、プロの矜持に頭が下がる。
「まだまだ引退はしません。目標は80歳まで仕事を続けること」と聖一さん。これからも、この「特別じゃない」とびきりの料理を楽しめそうだ。

グリルじゅんさい
TEL
075-721-1035
ACCESS
京都市左京区岩倉南大鷺町22
最寄りバス停
岩倉大鷺町、国際会館駅前
営業時間
11時~15時(14時半LO)
定休日
水(祝日の場合は翌日休)