フランス産の発酵バターは使っていません!
午前2時。静まり返った住宅街に、ひっそりと明かりが灯る。この道40年のパン職人、村川英雄さんは、毎日21時に寝て午前2時に起床。3時から作業を開始する。34年前、妻の実家を改装し自分の店を構えて以来、このサイクルで生活している。朝7時には店を開け、焼きたてのパンを買いにくるご近所さんを笑顔で迎える。地域に愛されるパン屋さんの一日は、こうして始まる。

サンド類は7時、焼き込み調理パンは8時、フランスパンは11時45分といった具合。
パティシエ志望の青年が
気づけばパン一筋に
初めからパン職人を目指していたわけではない。きっかけは高校卒業後に勤めた和洋折衷料理店で、デザート作りを任されたことだった。甘党だったこともあり、あっという間に夢中になった。「パティシエになりたい」。明確な目標ができ、転職先を探したが、パティシエの職は見つからなかった。
そんなとき、たまたま大手製パン企業「ドンク」がケーキ部門でスタッフを募集しているのを知り、応募。無事採用されるも、たまたま菓子製造の閑散期だったため、一時的にパン部門に配属される。
そのまま7年半・・・一度もケーキを作ることはなく、パン製造の現場で技術を磨いた。「やり始めたら、パン作りがおもしろくなってね」。屈託のない笑顔で話す村川さん。このおおらかさが、「たまたま」与えられた仕事を心から楽しめる資質なのだろう。村川さんは業界の流行もよく把握している。

日々のパンを買いにくる
ご近所さんのための店
村川さんの考える「いいパン」とは「大きくて、安くて、おいしいもの」だ。ご近所さんの「日常のパン」だから、買いやすい値段であることは必須条件。しかし、過度に高級な材料は使わず、欧米のパンを再現するのは自分の役目でないと割り切る。「うちの店ではフランス産の発酵バターは使いません!」。高らかに宣言する一方で、村川さんは言う。
「休日の朝、小さなお子さんを連れたお父さんが『あれが欲しい、これも欲しい』とせがまれて、トレイに山盛りのパンを買っていく。そんな様子を見ると、うれしさが込み上げてきます」。
長年使い続けるレトロな機械が並ぶ作業場。そこから眺める何気ない光景が、村川さんに日々の活力を与える。
「最先端のパン屋と比べたら、古臭いことをやっているように見えるかもしれない。何十年も前に習ったことを、ずーっとやり続けているわけですから」。
手間と時間がかかるため、最近ではあまり使われなくなったドライイーストを未だに使い続けるのも、自分が習ったパンの味に誇りを持っているからだ。
気取らない日々のパンを作り続ける町のパン屋さん。その存在の大きさは、夕方、パンはもちろんラスクまですべて売り切れ、すっからかんになった棚の様子からも一目瞭然。町の人たちは、店の値打ちをちゃんとわかってくれている。

店名(BARBE=仏語でヒゲ)は村川さんが長年たくわえているヒゲに由来。
BARBE
TEL
075-702-6767
ACCESS
京都市左京区岩倉三宅町45-4
最寄りバス停
岩倉大鷺町、岩倉三宅町
営業時間
7時~18時半
定休日
日