東九条のまん中で語り合う
ブックカフェというよりも、お宅にお邪魔しているような感覚。それが最初の印象だった。聞くと、老夫婦が暮らしていた古民家を、仲間たちと共にいちからリノベーションして作り上げたそうだ。教育や運動に関する人文学の本がずらり、選書も巷のブックカフェとは一味違う。

専業主婦から院生、
そしてカフェ店主に
「Sol.」2代目オーナーのヤン・ソルさんは、父は在日朝鮮人の2世、母は京都人という両親のもとに生まれた。大学に進学したが、忙しく働く両親の姿をそばで見てきた影響か23歳で結婚。迷わず専業主婦の道を選んだ。パートナーが育った東九条に越してきたのは、それから間もなくのことだ。2人の子どもに恵まれたが、30歳を前に離婚。幼子を抱え、大学事務など職場を転々とした。
子育てもようやく落ち着いた40歳のとき、「学び直したい」と母校の立命館の大学院に進学。これからどう生きていこうかと迷っていた時、知り合いの高校の国語教師から突然連絡があり、相談に乗って欲しいといわれた。軽い気持ちで会いに行ったら、早期退職するので所有する大量の本を置くためにブックカフェを開きたい、というではないか。まさかの申し出に驚くと同時に、「それなら私も手伝いたい」と即答したソルさん。
いくつか物件を見て回った結果、よく知る東九条のこの場所が候補に残った。

キンパ(土日限定)ハーフ480円~、ソルさんの手作り餃子6個630円。
父が理想を求めた東九条で
誰もが集える「広場」を
実は、「Sol.」がある東九条は10年前に亡くなったソルさんの父親ともゆかりが深い。父の名は活動家の梁民基(ヤン・ミンギ)。70年代、民衆が民主主義を訴える手段のひとつとして広まった韓国の「マダン劇」を日本に紹介した人物で、93年から始まった地域の祭り「東九条マダン」の創設メンバーの一人でもある。多様な文化が集積する東九条に、今でいう多文化共生の姿を見出した父。「その跡を継いでという意味ではなく」と前置きしたうえで、ソルさんもまた父の遺産ともいえるマダン劇の脚本を多く執筆してきた。テーマはさまざまだが、在日一世の老夫婦とプロレスラーを描いた今年の劇では、急ピッチで開発が進む現在の東九条で着想を得た。
「開発が悪いという意味ではないんです。ただ、たとえば『街が新しくなって、新築のきれいなもの一色になるのはちょっとしんどいな』という目線も残しておきたい」。ソルさんは、このブックカフェが、似たような思いの人や本と会えて楽になれる場所でありたい、と微笑む。
「マダン」の本来の意味は「広場」だという。韓国では、村の真ん中にマダンがあり、そこにさまざまな人々が集まる。とすればソルさんが守るこの空間もまた、ある種のマダンといえやしないか。変わりゆく東九条において、「Sol.」という広場の存在は大きい。

Books×Coffee Sol.
TEL
075-200-6855
ACCESS
京都市南区東九条西岩本町16-2
最寄りバス停
河原町八条
営業時間
17時~22時(金~24時)、土14時~24時、日12時〜24時
定休日
月・木