地元の客にいつも新作を。
「そこの電信柱がぎりぎりデッドラインなのよ。自分のいる場所が電信柱よりも遠かったら、もう買えないんだから」。
列の前方にいる常連さんらしき女性が振り返って教えてくれた。10月のある日、午前9時30分。小松屋の開店を待つ行列の長さは、ここ数年で急速に伸びている。皆のお目当ては期間限定の栗もち。並んだ全員が購入できることはまずない。
午前10時過ぎ、長い長い行列に頭を下げて回るのは店主の小東(こひがし)武史さんだ。


300個が限界
完全なる手作り
午後を待たずに店頭はすっからかん。午後4時半、Superflyが流れる店の奥で小東さんがリズミカルにあんを容器に移して、翌日の仕込みをしている。
まずは行列の声を代弁する気持ちで聞いた。お客さんはこんなに待っているのに、なぜもっと作ってくれないのか?
「愛媛産の生栗を剥いての手づくりは、1日300個ぐらいが限界なんです。これ以上はつくれません」。
ではいつまで作ってくれるのか?
「今年の栗がある限りです。それがいつかは『栗に聞いてください』としか言いようがありません」。
ちゃきちゃきの職人言葉で返された。実際その通りなのだろう、二の句が継げない。小東さんはカレンダーに目をやり、今年の栗もちのおいしさは春日大社のお祭り(10月第2土日)がピークかな、それを過ぎると栗の味が薄くなるからと付け加えた。

短い商品サイクルは
地元客のために
ほっくりとして、淡い甘みが生きた栗がごろごろり。お客さんから、栗まんじゅうとも呼ばれ、大変親しまれている。
小松屋の三代目だ。物心ついたころから「どんなまんじゅうを作るのか楽しみ」と言われて育った。子どもの頃あんこは苦手だったが、高校生のとき、父親のつぶあんを本気で「おいしい」と思った。苦手なものが好きになると、その先は速い。夜間の大学に通い、店を手伝った。
今、栗もちがここまで人気になった理由を、小東さんは分析する。
「期間限定の食材で、自分で加工するのは面倒、技術が必要。3拍子揃っているから売れているんだと思います」。
10月の栗もちに限らず、他商品も入れ替わりが早い。そしてどれも一細工がある。11月の豆大福には大粒の豆を忍ばせた。1月のいちご大福は牛皮(ぎゅうひ)ではなく、つきたての餅で包む。4月の柏餅は生米を蒸して、より餅らしい触感を出す。6月のオレンジゼリーはむき身が美しい。
サイクルの短さは四季の変遷ゆえかと尋ねると、「作ってる自分が飽き性だから」とはぐらかしつつ、教えてくれた。
「うちは基本、地元のお客さんが中心です。月に1回来店して、なにも新しいものがなかったらつまらないでしょう?」。
研究熱心な三代目は、いずれ栗もちを超える和菓子を生み出すだろう。人気急騰する前に、見つけておかないと!

「和菓子って、まだまだチャレンジの余地がある。もっと自由でいいと思うんですよね」
小松屋
TEL
075-313-1605
ACCESS
京都市中京区仏光寺御前角
最寄りバス停
四条御前通
営業時間
10時~17時
定休日
火