モチベーションに火をつける
「一期一会」は、無農薬野菜を取り扱う小さな八百屋。オープンは2018年の秋。まったくの異業種からの起業をした店主の鋤田隆幸さんの選択は、なかなかにしてユニークだ。
困難に燃える性格、
中国での立ち上げにやりがい
鋤田さんは地元京都の大学卒業後、フリーターの道を選んだ。20代のときすでに、他の人よりも仕事の飲み込みや、コツをつかむのが早い自分に気づいていた。でも同時に、やっかいなのはモチベーションがないと続かない自分の性格だ。アパレル会社や、某大手半導体メーカーに就職しても、すぐ活躍して社内評価を上げる。しかし、その仕事を続けられるかは、自分のモチベーションに火が付くか次第だった。
今まで一番モチベーションが上がったのは、半導体メーカーでの中国工場立ち上げ。「他国では商習慣も、現地の人とのコミュニケーションも違う。困難を乗り越えるのが、めちゃくちゃ楽しくてね」。鋤田さんは、モチベーション全開の自分に気づいた。現場責任者として定年まで中国にいるつもりだったが、会社の経営方針が変わって工場は閉鎖。2016年に帰国。安定するポストでの平凡な日々に満足できず、2年後退職した。

話せる、需要がある。
八百屋という選択
独立を視野に入れた鋤田さん。自分がなにがいちばん火がつくかを突き詰めた結果が「しゃべり」だった。
「お客さんと対面で接客ができる仕事をしよう!」。小売りのなかでも流行りすたりがなく、いつも一定数の需要がある業種はなにか? 魚屋、肉屋、八百屋の3択に絞った。でも、肉と魚はバックヤードの設備投資に金がかかる。行き着いた解は「八百屋」。場所は映画村からほど近い住宅街で、無農薬・有機の野菜なら競合店がないことも調べた。
「そんなわけで、野菜好きから八百屋になったんではないんです。でも、やるからにはその業種のことを調べつくす。『この野菜がおいしかった』って聞くと、もっとその声が聞きたくなる」。
鋤田さんは客においしさを伝えるために、必ず農家に足を運ぶ。店の名前の「一期一会」は、生産者との関係性を大切にしてきた証。同時に、お客さんとも一期一会。絶対にお客さんを楽しませたい。

「うちは小売、卸し、しゃべりの3本柱の八百屋です。この、葉がまっすぐなキャベツ、めずらしいでしょ? 豚バラ肉をくるくるって巻くだけでロールキャベツ。閉じなくていいし、すごくおいしい」。
思わず買ってみたくなる。口上を聞いているだけでも、おもしろい。
「お客さんが同じ野菜を何度も購入してくれたとき、テンション上がりますね」。
人生半ばで選び取った、八百屋という選択。困難な道こそが、鋤田さんのモチベーションに火を注ぐ。こんなふうな仕事の選び方があってもいいのだ。

一期一会
TEL
075-432-7599
ACCESS
京都市右京区太秦馬塚町18-40
最寄りバス停
常磐野小学校前
営業時間
月~金:9時~19時
土日祝:10時~18時
定休日
水