ソースのレシピは門外不出
「山本まんぼ」が初めて情報誌に取り上げられたのは90年代の初頭。戦後すぐの開業以来、崇仁(すうじん)のローカルフードとして親しまれてきた「まんぼ」が世の中に「発見」され、その存在が地域の外へと広まっていった。それからさらに30年。今では世界中から「まんぼ」目当ての客が押し寄せる。店を取り巻く状況は、75年前の創業時とは大きく変わった。

食糧難の時代に
崇仁で生まれたソウルフード
戦後間もない1948年、「薄いべた焼にそばを乗せたらボリュームが出て喜ばれるだろう」と、現店主・山本明さんの叔母が考案した「まんぼ焼き」。食べた人が思わず「うー、うまい。うー、マンボ!」と叫んだから、あるいはボテッとした見た目が魚の「マンボウ」に似てるからなど、「まんぼ」の由来には諸説ある。
やがて創業者の弟だった明さんの父が二代目を継ぎ、その時代に「まんぼ」の名は全国へと広がる。地元の人ばかりだった店に、ガイド本を手にした観光客がやってくるようになった。
父から「店を手伝ってほしい」と明さんが言われたのは、今から15年ほど前のことだ。独立して不動産業を営んでいた明さんだったが、年を取って体の不調を訴えるようになった父からの頼みを無下にはできなかった。
「なにより、叔母から父へ継いできた、このまんぼの味をなくしたらあかん、という気持ちが強かったです」。
小さいときから食べている「まんぼ」の味は、自分が誰よりもわかっている。だから「味の継承」に不安はなかった。口では父に「店をつぶしても知らんで」と憎まれ口を叩いても、叔母から父へと受け継がれてきた「山本まんぼの味」は自分が守りたい。そう思って腹を括った。
味の決め手を尋ねると、明さんは迷いなく答えた。
「なんと言ってもソース。店を引退した後も、長らくソース作りは父の仕事でした。わざわざ別の場所で作って、店まで運んでくる。門外不出のレシピを教えてもらえたのはつい最近、5年前のことです」。

甘・甘辛・辛、3種類の秘伝のソースが味の肝。創業以来の定番、ホルモン焼(600円)などサイドメニューも豊富に揃える。
「創業100年超え」を
次の味の担い手に託したい
ちょうどその頃、開発による立ち退きのため、現在の場所へと移転。新しい店は明るく、入りやすい雰囲気で、客層はますます多様化していった。「まんぼ焼きは昔となにも変わってないのにね」と、多国籍な顔ぶれのカウンターの向こうで明さんは笑顔を見せる。
次の目標は「創業100年を超えること。僕には無理だけど、次の世代に託したい」。そのために、気働きのできる有望な外国人スタッフに伝統の味を惜しみなく仕込んでいる。
「味」さえ変わらなければ、「作り手」も「客」も「店の雰囲気」も、時代に合わせて変わっていけばいい。そんな柔軟な考え方が、まんぼ焼きを「創業100年」の未来へと伝えていく。

山本まんぼ
TEL
075-341-8050
ACCESS
京都市下京区小稲荷町61-54-102
最寄りバス停
塩小路高倉・京都市立芸術大学前
営業時間
10時~21時半
定休日
水・第3木