家族と会話をして、ごはんを食べる日々を続けたい
自家焙煎珈琲を出す居心地のいいカフェ「バステトコーヒー」の2階では、土日のみ「漫画喫茶バステト」がオープンする。
「おいしい珈琲のある漫画喫茶って、あまりないでしょう?」と話すのは、台南でカフェを営んでいた加藤さん。一昨年、店を畳んで帰国し、台湾出身の妻・佳妤さんとこの店を開いた。

会社員生活に限界を感じ
台湾でカフェを起業
岐阜出身の加藤さんは同志社大学を卒業後、東京にある外資系の化粧品メーカーに就職。マーケティング部で着実にキャリアを積む一方、「出世に価値を置く社内風土や、自分に割く時間の少なさ」に息苦しさを感じた。「一生、会社員でいいのか。何かできることはないか」迷っていた。
元来「同じことをやり続けるのが苦手」と自己分析する加藤さんは、サラリーマンをしながら、24歳のとき東京でゲストハウスを始める。「会社とはまったく別の人たちに出会えるコミュニティが欲しい」。そんな思いで作った場所で、日本旅行に来た佳妤さんと出会った。いろんな人と話すうちに、自由に生きている台湾の人たちに親近感を持つようになる。
ゲストハウスを閉じて、日本を飛び出したのは、加藤さん27歳のとき。行き先は台湾。「一人でビジネスをしてみたい」という目標を実現すべく、ゆるやかな空気の流れる台南でカフェを開いた。
台南で始めた小さな店。「やるなら極めたい」と焙煎も勉強し繁盛する。しかし、加藤さんが日本に一時帰国していたタイミングでコロナとなり、台湾がロックダウン。2年間、台湾に戻れなくなった。
夫婦で営む京都のカフェは
心安らぐ日々の糧

コロナを経て台南の店を畳み、加藤さんは帰国と結婚を決めた。佳妤さんと2人で京都へ移住。東京でも岐阜でもなく、大学で過ごした京都を選んだのは、「都市と自然のバランスがいいから」。そして、白川疎水に面したこの物件を見つけた。
自分のやりたいことを模索し、この店に行き着いた加藤さんは、いまあらためて「カフェは避難所」だと言う。
「家でふと孤独を感じ、誰かの気配を感じたくなったとき。あるいは逆に、家族と離れて一人になりたいとき」。
その両方に応えるため、人と出会える1階と、漫画に没入できる2階を作った。そして、内装やグッズのデザイン、SNSの運用は佳妤さんが担当する。

「僕の思いを汲んで、形にしてくれるのは妻。彼女がいなければ、そもそもこの店もやっていない」。
妻に惚れ込む加藤さんの夢は、意外にもほろりとするものだった。
「家族とゆっくり会話をして、ごはんを食べて。そんな日々を、ずっと続けていきたい。カフェはそのための手段です」。
そんな夫を横目に、佳妤さんは笑顔を見せる。「私はまた、一から店を作ってみるのもいいと思う」。模索する夫と、形にするのが得意な妻。次の展開が楽しみだ。
バステトコーヒー
TEL
050-1721-3784
ACCESS
京都市左京区一乗寺大原田町23-11
最寄りバス停
一乗寺高槻町、高野
営業時間
13時~18時
定休日
月・火(2階は土日のみ営業)