この先も、体力の続くかぎり、3人で。
「すごく仲がいい、って驚かれることは多いですね。でも私としては、兄たちと同じ両親から生まれて、同じ両親に育てられて、同じごはんを食べてたら、仲よくなるもんだと思っていました。」
そう話すのは接客を担当する末妹の眞咲子さん。そばとお酒と接客を担うのは長兄の石田重人さん、一品料理を手掛けるのは2番目の英雄さん。3人が揃うと、ときに爆笑を交えつつ、いつまでもテンポのいい会話が続く。訪れる度、信頼しあう兄妹の様子を眺めているのは気持ちがいい。
初代である両親の早逝で
図らずも店を継ぐことに

2023年に節目の50周年を迎えた「通しあげ そば鶴」。さかのぼること半世紀。そば屋での丁稚奉公のため九州からやってきた父親が、1973年に新町寺之内で創業した同店は、45年前、一乗寺に移転した。
「母親に次いで、親父が病気で亡くなったんです」と、カラッとした口調で当時を振り返る重人さん。
形見の店を受け継いだのは重人さんが31歳、英雄さんが28歳のとき。それまで重人さんは10年間、両親と共に働いていたが、「両親が健在のときは、特に継ぐ気はなかったんですが」と振り返る。

「代替わり後しばらくは『潰れる』と噂されました。親についていた常連さんは来なくなった。でも、僕も弟も不安ではなかった。お客さんが少なくても、手を抜かなかったので」。
よく似た性格の英雄さんも、兄の隣でうなずきながら続ける。
「最初は親父の味を踏襲しようと思っていました。でも途中で、『もう俺らのやりたいようにやろう』って考えを変えました。とびきりの魚を仕入れて、割烹が出すような、一品料理を増やしたんです」。
店の看板である、だしとそばも刷新した。「味だけじゃなく、僕らもどんどん変わってますよ」と兄と弟は口を揃える。
そうして「通しあげ そば鶴は、一品料理もおいしい」と評判を呼ぶように。守りに入るのではなく、常に軽やかに変化する。挑戦したいことは、まだたくさんある。
お酒も、おいしいそばも。
父の生前の夢をかたちに

平日も昼からお酒を嗜む客でにぎわう店。うまい小料理がある酒場でありつつ、締めにこだわりのそば。ご両親はきっと天国で目を細めていることだろう。
兄弟の味に常連が増えて自信もついた頃、今度は心強い援軍、眞咲子さんが手伝ってくれることになった。あうんの3人体制となり、兄妹による軽妙なおしゃべりは、そばと並ぶ名物になった。
「常連さんから『飲みにきた客よりも楽しそうに働くな!』って言われることも」と眞咲子さんが笑う。3兄妹の笑顔が並ぶ「通しあげ そば鶴」のカウンターの景色は、新たな一乗寺の名物だ。
「体力の続く限り、3人で店をやりたい」と重人さん。これからも、どうかずっと。

通しあげ そば鶴
ACCESS
京都市左京区高野玉岡町74
最寄りバス停
一乗寺高槻町
営業時間
11時半〜15時 17時半~22時
土日祝 11時半~21時(そばが売り切れ次第終了)
定休日
月・第2、4火