一日中ビートルズが聞ける。こんな幸せな商売はない。
イギリス・リヴァプール出身の、世界一有名な4人組。彼らの曲を聞いたことがない人はいないだろう。1962年から1970年、たった8年のあいだに放たれた214曲で、人生が変わった男の話をしよう。

出会ったときの衝撃
バンドで人気を博す
公式には年齢非公開の山本博さんは、小学生の終わりに、ラジオでビートルズを聞いた。時代は舟木一夫『高校三年生』の全盛期。その衝撃をこう振り返る。「この世のもんとは思えなかった。すごかった。メロディも音もすべて、突然空から湧いてきたようだった」。
初めて聞いた曲は、せつなさと色気が共存するボーカルが印象的な『Please Mr.Postman』だ。驚いて、レコードをもっていた友達に頼んで聞かせてもらった『She loves you』、冒頭のコーラス、「She loves you,yeah yeah yeah」が強烈で、山本少年は完全にノックアウトされた。毎日ビートルズのことばかり考えた。
中学生のときに、『Beatles A Harddays night』(邦題『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』)を映画館に見に行った。静止画ではない、動く4人を見て、「もう死んでもいい」とさえ思った。
自分がビートルズになりたい時期もあった。1970年代に、初期のビートルズの曲を中心に演奏するバンド『都落ち』を結成、ドラムを叩いた。結局レコーディング前に『都落ち』は解散した。
「当時、ビートルズの影響を受けていないロックバンドなんてなかった。『東のCAROL(矢沢永吉が率いた人気バンド)、西の都落ち』って言われたよ」、山本さんは黒いサングラスの奥で目を細める。

トリビアには興味なし
「ただ曲が好きなだけ」
1976年、山本さんが『都落ち』解散後に「RINGO」を構えた理由は「1日中ビートルズを聞いて、食べていける。これほど幸せな商売はない」。百万遍を選んだのは、日本のロックの拠点である西部講堂から近いから。
「1回改装したけど、雰囲気はずっと変えてない。『学生時代と同じだ』って懐かしそうにやって来るおじさんたちもいる。これぞRINGO、私の店だ」。
実は、山本さんはビートルズのトリビアにはまったく興味がない。「誰の誕生日がいつかなんてどうでもいい。俺はビートルズの曲が好きなだけ。全曲をランダムで何日かかけて聞くのが楽しいんだ」。
山本さんは、ビートルズのない人生はまったく想像がつかないと話す。
「ビートルズのどこがいいかなんて語りつくせない。ただ漠然と圧倒的に魅力的。小学生のあの日から、ビートルズへの情熱は、燃えっぱなしだよ。やっぱりいいなって、何度聞いても思う」。
そういって山本さんは暗い店内、カウンターのなかで小刻みにリズムをとる。半世紀聴きこんだ214曲、これからも山本さんは変わらない。


RINGO
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