“本”とは、“人”である
幼い頃から「本の蟲(むし)」だった。
「小学生の時は図書委員。毎日、ランドセルを本でいっぱいにして。自分の図書館のように思っていましたね」。
美術館のそばにある、一軒家の書店。山﨑純夫さんは、美術書を扱う古書屋の主人である。出身は福井県。親に連れられて観に行ったミレーの絵に衝撃を受け、大学は東京の美大に。バイト先には古書も扱う本屋を選んだ。

導かれるかのように
ある人物との出会い
しかし、画壇での成功という将来に違和感を感じ、1年で中退。その後は個人で本を仕入れ、配達をするなどして生活費を稼いだ。東京での生活は3年足らず。短い期間だったが、今も鮮明に覚えている出来事がある。
とある日、導かれるように足を踏み入れた吉祥寺の井の頭公園にある森の中のギャラリー。どうやら出版社が運営する施設のようで、そこには芸術的な装丁が施された「本」が展示されていた。
「絵の具が付いた汚いズボンを履いていた若い僕を、オーナーのおじいさんはお茶を出してもてなしてくれて。ふたりきりで芸術や本の話をして、夢のような時間でした」。 と同時に、「将来はこんな人になりたい」。そう強く思った。

それから両親が住む京都に越し、東京の延長で本屋をはじめた。北野天満宮での露天、間借り営業を経て、京都大学のそばに店舗を構えた。
その頃から欠かさないのが美術書をテーマに沿って紹介するカタログの制作だ。一言でいうと販促ツールなのだが、読み物としても成立する充実の内容で、紙の仕入れから編集、自家製本、投函までをひとりで行ってきた。孤独な作業。でも、「思った通りにやりたいから、自分でやるしかない」と笑う。

本を通じた、いち表現
「綴(と)じる」ことの面白さ
近年、夢中になっているアートブックの制作もライフワークのひとつだ。例えば、絵巻物。体裁がないものの方が、「何かが潜んでいる」ようでワクワクする。実際の作品でも、判型という枠を遥か超え、物語は展開していく。
「まるで『シンガーソングライター』みたいに、イラストレーター&ライター&バインダーを目指したい」。
バインダーとは「綴じる人」。自分で見つけたテーマを描き、バインドする。「本を綴じる」ことでひとつの世界が生まれると山﨑さんは目を輝かせる。
昔から、本は人だと思ってきた。引き寄せられるように書棚の前に立ち、目と目が合う。本との出会いは本の向こう側にいる人、つまり作り手と出会うことだ。
「森のギャラリーで出会ったおじいさんの話じゃないけど、あれはまさしく、本のような出会いだったなって」。
本と出会い、人生が変わる。それはなんら、不思議なことではないのだ。

山﨑美術書店
TEL
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最寄りバス停
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