日常の延長にある寿司を
豊臣秀吉が天下人だった時代、伏見城へとつながる重要な道「大手筋通」に由来する伏見大手筋商店街。現在も伏見桃山のメインストリートとして、アーケードには多くの店舗が軒を連ねる。「阿津満(あづま)」もその一軒。1931年に、小西良平さんの曽祖父がこの地に暖簾を掲げた。
家族で経営する寿司屋を
遊び場として
かつては出前もよくしていたが、約50年前に商店街が歩行者天国になったことを受けて、今では通りすがりの買い物客に向けた営業形態に。食事はもちろん、巻き寿司一本から気軽に購入できる「街の寿司屋」として地域に根差してきた。

小西さんは、小学生の頃から、放課後は祖父母と父と母が働くこの店で遊んでいたそう。働く親の背中をそばで見てきた、そんな環境もあってか大学を卒業した後も家を手伝うことに抵抗はなかった。
「大学を卒業した頃、父はもう60歳手前で。仕事を覚えるのであれば、一旦就職して戻ってからよりも、父がまだ元気なうちがいいと思いました」。
店には代々の常連客が多く、この先もやっていけるという手応えもあった。店を継ぐというプレッシャーはもちろんあったが、「できるうちはやっていこう」。そう決めて、父に弟子入りした。
支えてくれたお客さんのため、
時代に左右されない商いを
巻きにちらし、そして箱寿司。寿司といえばにぎりという人も少なくないけれど、幼い頃から京寿司に親しんできた小西さんにとっては、これこそが寿司だ。
「『隣の芝生は青く見える』の言葉のように、江戸前のにぎり寿司の方がよく見えた時期もありました。でも一周回って、こういう商店街の寿司屋だからこそ生き残ってこられたのかなと今は思います」。
目指すのは「暮らしに寄り添う寿司屋」。気合いを入れて予約しないと行けないような高級店とは違い、日常の延長にあることが街の寿司屋の真骨頂だ。
小西さんは仕込みに時間をかける。たとえば、巻き寿司に欠かせない椎茸の佃煮には、なんと1週間ほどを費やす。「阿津満」のような昔ながらの寿司屋は年々減少していると聞くが、京寿司ならではの手のかかる仕込みもひとつの原因なのだろう。さらに食材費が高騰する今、阿津満の寿司は、とても贅沢に見えてくる。

小西さんにとって、店の存続は課題だ。
「ほかの老舗のご主人とよく話しています。浮き沈みに左右されるのではなく、ぼちぼち続けることが大切なんだと」。
インバウンド景気に沸くのは、このあたりも例外ではない。でも小西さんの視線は冷静だ。思い出すのはコロナ禍、助けてくれたのは商店街の客だった。
「地元のお客さんに喜んでもらえる以上は続けたい。いろんな寿司が買える時代に、うちみたいな京寿司の店があってもいいと思うんです」。
時代に踊らされることなく、四代目店主は創業から百年の未来を見据えている。

阿津満
TEL
075-611-1379
ACCESS
京都市伏見区東大手町762
最寄りバス停
西大手筋
営業時間
10時~18時
定休日
火