「茶人の選ぶ京の菓匠」
季節感を大切にする、1店舗主義の想い。
ガラスケースには和菓子の見本のみ。注文すると初めて、奥で菓子職人が作り始める。
「うちには茶房もありますから。できる限り、できたてを召し上がっていただきたい」。そう語るのは、菓匠長生堂の3代目、中村雄作さん。家業を継ぐべく、菓子職人の道を志したのは26年前。季節に敏感な茶人が贔屓にするこの店で、多くの経験を経て、現在代表として活躍している。

休日には甘味をもとめて、行き交う人が、長生堂の奥の間、茶房「長寿庵」に訪れる。
「お茶人さんは、お菓子のサイクルも楽しみにされているので。やはり季節には敏感になりますね」。
2週間に1度は、菓子の色合いや形、名前を変え、その時期に一番相応しいものを並べるという。それは朝生菓子はもちろん、上生菓子や干菓子にいたるまで。季節に敏感なこの店では、時期を逃せば来年の同時期まで、お目にかかれない和菓子がたくさんある。
「桜餅は4月で終わりですね。交代で柏餅が始まります。5月5日頃までですけどね(笑)」。
柏餅が終われば、6月20日頃から出始めるのが水無月。ほんの数日間だけ売られる菓子も少なくない。
「5月に水無月を出されるお店もありますが、やはり時期のものですから。うちは6月末からですね」。


新作も、まずは日々の
誠実な菓子作りから。
「ちょっと粉を間違えて作った菓子があったんです。たくさんできたから皆で食べてみたら、それがとても美味しかった。それからその生地を他の菓子にも応用してみたんです。新作って意外と偶発的に生まれるんじゃないかな」。
家内工場で作る店では、大手のように商品企画の専門部署は無い。これを作りたい、と具体的に思い描いてではなく、日々の誠実な菓子づくりをする中で、偶然生まれたものが、ヒット商品に繋がることもある。
「手が変われば、菓子も変わると思うんです。だから、できるだけ、この規模で自分が作り上げたい」。創業以来の1店舗主義を貫こうとする中村さん。何より、伝承した大きなものは、技ではなく菓子づくりへの精神だという。
受け継いだ心を土台に
時代とともに変わる味。
「100年前と今では材料や砂糖の品質もまったく違う。伝統の味ってよく言いますが、私は昔と同じ味はできないと思います」。
中村さんが跡を継ぎ、長生堂の菓子の味は少しずつ変化している。「時代によって甘さ離れもあります。その時代に合う味をつくることも大切でしょう」。
京菓子を軸足に、もう一方の足では、常に情報収集したいと語る中村さん。「昔であれば、1町内に1つは和菓子屋があると言われました。それくらい京都は和菓子屋が多いようです。だから、京都のお客様は、我々より、よく和菓子をご存知なんです。ご意見からヒントをいただくことも多いですね」。
5月15日には、その1日だけしか販売されない「葵上用」が登場する長生堂。新緑色の美しい菓子と、涼を見せる寒天菓子が、そろそろ並んでいるだろう。
京菓匠 長生堂
TEL
075-712-0677
ACCESS
左京区下鴨上川原町22-1
最寄りバス停
北大路駅前、植物園前
営業時間
10時〜17時半
定休日
月曜・火曜