女性的で、ふわっとお洒落な学生食堂。
学生が通う食堂のお母さんと言って思い浮かぶのは、いわゆる“肝っ玉母ちゃん”の豪快なイメージ。しかし、「ぴかんて」の矢杉敬子さんは全く違う。すらりとした長身に上品な物腰がなんとも“美しいお母さん”なのである。彼女の独特の雰囲気が、むさ苦しくなりがちな学生食堂のイメージをどこか垢抜けさせている。
食べ盛りの大学生が食事をしながら漫画に読みふける。この光景こそお決まりだが、真鍮のアイス珈琲カップや、絵本を使ったメニューブックなど、女性店主のおしゃれさと柔らかさによって、寛げる空間が出来上がっているのだ。

嫁姑の二人三脚で
育んだ絶品カレー。
立命館大の東門から坂を下りたところ、カレーとピラフが名物の「ぴかんて」は、30年前に敬子さんの姑と義妹さんが始めた。翌年、敬子さんが嫁いできて、交代するように義妹さんは嫁に出て、敬子さんと姑さんの二人三脚が始まった。
「最初からピラフとカレーは絶対一から手作りでっていうこだわりがあってね。私はレシピを教わって、あとは義母の作ってるのをひたすら見て覚えました」。
丸2日かけて仕込んだカレーを、さらに半日以上寝かしてから出している。長時間煮込まれた牛肉はルーと一体化しているかのようなトロトロ感。ひと口目、ふた口目は甘く、じんわりと辛みがやってきて、しっかりと濃厚なのにさらっとしているからどんどん食べたくなる。
ぴかんて初代のカレーに、ニンニクや生姜、辛子バターといった敬子さんの創意工夫が加わって、立命館大生の熱い支持は昔も今も変わらない。「卒業生が来てくれるのがとても嬉しいんです。たまにその人の子供がまた立命を卒業してたりね、びっくりやね(笑)」。

優しさの奥に
隠れて見える、たくましさ。
特に、今ほど周辺にランチの店が多くなかった頃は相当忙しかったらしい。
「一番多い日で2升釜を5回炊いたりね(笑)、忙しすぎて子供を育てたことも覚えてないんですよ、どうやって育ったんでしょうね(笑)」。
姑さんという戦友とともに、押し寄せる学生の胃袋を満たすべく大きなフライパンを振り、子供を育て、ご主人を支えてきた敬子さん。不思議なのは、そのたくましさが前に出てこないこと。ずっと優しいイメージに包まれているのだ。彼女に恋の悩みを相談したくなる男子学生の気持ちもよくわかる。「アドバイスとかはよう言いませんわ(笑)。その子の心に寄り添ってあげるしかないですもんね」。
実の娘は助産師になり、今は会社員の娘婿がたまに店を手伝いながら、敬子さんに付いて料理修業中とのこと。近い将来、今度は娘婿との二人三脚で、ぴかんてに新しい風が吹くかもしれない。変わることのない優しい風速で。

伽麗伊屋 ぴかんて
TEL
075-461-0318
ACCESS
京都市北区小松原北町56-21
最寄りバス停
小松原児童公園前
営業時間
9時半~18時半
定休日
土・日