ヤノベケンジの世界から語る現代アート
タワー・オブ・ライフ
2003年に老朽化のために解体されたエキスポタワー。地上100メートルの高さにあったキャビンの内部ではコケが自生していた。「熟した未来の果実は地上に落下した。果実の中にある種は芽生え、再び天に伸びようとする。ヤコブの梯子? バベルの塔? 宇宙に届く軌道エレベーター? ……」ヤノベケンジの手によって未来の塔が新たな姿で生まれ変わる。
エキスポタワー部材、苔、蛍光灯、碍子/600×600×270cm/2003年/photos:豊永政史
大阪万博当時、丹下健三の大屋根を突き破る岡本太郎の「太陽の塔」の真正面に、もうひとつ、未来志向の造形物として「エキスポタワー」という展望塔がそびえ立っていた。この高さ127mものタワーは、都市の「新陳代謝」を目指す建築運動、「メタボリズム※」の提唱者のひとり、菊竹清訓(きくたけきよのり)によって、未来の空中都市を構想して建築された。しかし、老朽化により、2002年暮れから解体工事が始まり、かつてのパビリオンのように撤去されることになっていた。「壊される前に登って、なにがあるのか見てみたい」。好奇心で胸が高鳴り、ヤノベはタワーに登り、100m上空のキャビンへ入った。野鳥が種子を持ち込んだのだろうか。不思議なことに、キャビンの床には苔や植物が生い茂り、未来の廃墟は緑に包まれていた。その後、タワーは一部分ずつ解体され、キャビンに茂る緑も、空中から地上にゆっくりと降ろされていった。「熟した未来の果実が、地面に落ちていく」。解体現場に立ち会ったヤノベは、そんな幻影を見たように感じた。
2003年、ヤノベは解体された「エキスポタワー」の部品をもらい受け、同年に開催する国立国際美術館での個展「MEGALOMANIA/メガロマニア」で、《Tower of Life /タワー・オブ・ライフ》というインスタレーション作品に使用して発表する。落ちてきた未来の果実の種が、また地上で成長して新しい塔ができたら、もう一度その地になにかが生まれたら……。そんな妄想をふくらませながら、インスタレーションは構成された。
ヤノベのイマジネーションの原点である大阪万博会場跡地の美術館で、「太陽の塔」と「エキスポタワー」という万博の遺産とも関わり合いながらの展覧会。ヤノベとこれ以上フィットする場所はなかった。
閉幕後、ヤノベは「アトムスーツ」を封印する。また、《Tower of Life/タワー・オブ・ライフ》のパーツを、日本万国博覧会記念協会に寄贈し、それはエキスポタワー跡地に「新たな実」として設置された。ヤノベにとって、イマジネーションをリセットし、いわば廃墟の状態にしたのが2003年という年だった。
しかし同時に、この展覧会は若い世代へも影響を与えていた。当時、万博記念公園内の万博記念ビルに入居していたIMI(インター・メディウム・インスティテュート)というアートスクールの講師となっていたヤノベの実践教育として、国立国際美術館の展覧会の立ち上げを手伝っていた学生や若いアーティストたちが、アートと建築の融合した大阪万博の面白さに出会ったのだ。
彼らは菊竹清訓らを招聘(しょうへい)し、万博から34年後、まさにそのタワーの足元に近い会場で、白熱したトークショーと、光と音のイベント「a LIFE of EXPO」を開催した。
それまでは亀岡にある山腹の工房で、黙々と孤独な創作活動を続けていたヤノベだが、このときから、若い世代と関わり、一緒に大学などでプロジェクトを遂行するようになる。自身の活動や作品を通じて、なにかが次世代に引き継がれていく、そうヤノベが実感した2003年でもあった。
注 ※1959年に黒川紀章、菊竹清訓ら、当時、日本の若手建築家・都市計画家グループが開始した建築・デザイン運動。
ヤノベケンジ
PROFILE
現代美術家。京都芸術大学美術工芸学科教授。ウルトラファクトリーディレクター。1965年大阪生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。
1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作。幼少期に遊んだ大阪万博跡地「未来の廃墟」を創作の原点とし、ユーモラスな形態に社会的メッセージを込めた作品群は国内外で高評価を得る。1997年放射線感知服《アトムスーツ》を身にまといチェルノブイリを訪れる《アトムスーツ・プロジェクト》を開始。21世紀の幕開けと共に、制作テーマは「リヴァイヴァル」へと移行する。腹話術人形《トらやん》の巨大ロボット、「第五福竜丸」をモチーフとする船《ラッキードラゴン》を制作し、火や水を用いた壮大なパフォーマンスを展開。2011年震災後、希望のモニュメント《サン・チャイルド》を国内外で巡回。『福島ビエンナーレ』『瀬戸内国際芸術祭2013』、『あいちトリエンナーレ2013』に出展。
https://www.yanobe.com/