伝えることに喜びを感じる
2019年に開いたシェアレストラン「そ/s/KAWAHIGASHI」では、料理を作るだけでなく日本の食文化を伝える役割も担う。銀閣寺の名店「草喰(そうじき) なかひがし」の中東久雄さんを父に持つ中東篤志さんは2歳のときに卵を割り、小学校で生のイカをさばいていた。
「母親の教育方針で、年齢ごとに『何歳までにこの家事を』という課題があって」。
2人の兄たちに続いて、中東さんは料理体験を積み重ねた。

バス釣りのプロを目指して
遠い異国で食と向き合う
料理人の父のもと「食事時には、その料理への批評が飛び交うのが当たり前」。そんな家庭で育った中東さんだが、食の在り方についての気づきを得たのは日本ではなかった。料理人を志す兄たちとは違い、バス釣りの世界的なプロを夢見た中東さん。高校時代は資金作りのためにバイトに明け暮れ、卒業と同時に渡米。各地の大会に出場しながら、自炊の延長で友人たちに日本の家庭料理を振る舞った。すると、どんどん人集まって「おいしい」と喜んでくれる。当時のホームステイ先で「アツシ、飼っている鶏で何か作って」と頼まれ、自分で潰した鶏で鳥すきを作った出来事は今も忘れられない。
「食事の途中でおばさんが急に泣き出したんです。理由を聞いたら、幼い頃に1羽の鶏を分け合い、祖母や親、兄弟と食べた記憶がよみがえってきたって」。国は違っても、食が想起させる故郷への想いは変わらない。では、自分にとっての日本食とはなんだろう。海外に身を置いたからこそ芽生えた疑問だった。

日本食の本質を伝えたい
使命にも似た想い
バス釣りのプロへの挑戦は5年と決めていた。次は料理の道へと切り替えて、ニューヨークに出店する精進料理のレストランに立ち上げから関わった。英語力を活かして各所の橋渡しをするなかで、中東さんは料理をすることそのものより「日本食の本質を伝えること」に喜びを見出すようになった。
自分の進みたい道が見えてきた中東さん。29歳で独立、以降はカリナリー(食方面全般)ディレクターとして、メニューへの助言や日本食イベントのサポートなど、海外と日本を往復、活躍を続ける。
一方、「そ/S/KAWAHIGASHI」では自らも厨房に立ち、客と交流する。代表料理は和の精神を象徴する伝統食、「ひとつの釜で炊いた飯を結んで、みなで食べるおむすび」。聞けば、欧米にも1本のバゲットをみんなで分け合う「Break the bread」という言葉があるという。
「おにぎりに象徴される『調和』の精神。日本の食文化は、確実に平和をもたらす。この精神を世界に伝えたいんです」。
食とは民族のアイデンティティそのものだ。コの字に囲まれた9席、小さくも可能性に満ちたカウンターから、日本の食の未来を見据える。

そ/s/KAWAHIGASHI
TEL
075-748-1715
ACCESS
京都市左京区東丸太町18-5
最寄りバス停
丸太町京阪前
営業時間
Instagram参照
定休日
不定