農家の役割は大きい
通りに面した軒先に旬の野菜たちが並ぶ。形は不揃いだが、その体躯は力強く、見るからに栄養満点。店主の直筆と思しき手書きの張り紙には、「すべてわが家の畑で作ったもの」とある。
上賀茂は農家自らが出向いて販売する振り売り。それに対し、人工密集地である洛中では古くより野菜の売買は農家が住まう民家の軒先で行われてきた。「京やさい 佐伯」はそのスタイルを貫く。

年々、姿を消す農地
都会の農家としての使命
京都の伝統野菜を多く栽培する「京やさい 佐伯」。野菜農家としての歴史は江戸時代にまで遡る。当主の佐伯昌和さんは5代目。この界隈で生まれ育ち、島根大学の農学部を経て家業を継いだ。跡を継ぐことを決めたのは、誰でもなく自分の意思だった。食は命をつなぐものだ。高校生のときから環境や食料、そして国の減反政策に問題意識を感じていた。「生きるうえで、農業は大事だと思いました」。
今、佐伯さんは中京区西ノ京、右京区花園、太秦安井など京都市内4か所と亀岡市河原林に畑を所有する。亀岡以外の畑は住宅と隣接するような形だ。年々、都市開発によって都会の農地は減っている。しかし、佐伯さんは「都会にこそ農地は必要」と説く。
「まずは、目の前で畑を見ることができるということ。土が見える、葉が生えている。畑は人為的なものですが、そういう環境は人間にとっての癒しになると思います」。
食料生産の現場であり、自然の営みを感じる場所。都会における農地は、ただそこに在るだけで見る者の心にも栄養を与えてきた。

人間も機嫌よくいられる
畑を目指して
農薬は使わない。でも、農業を志した当初は農薬を使用していた。畑と人との距離が近いという都会の農家ならではの理由もあったが、「農薬で茶色くなった草を見るのが嫌で」。除草剤をやめ、1999年に農薬に頼らない野菜づくりを実現した。農法も露地栽培にこだわる。それは季節感を大切にしたいという想いと、「暑いさかいに早く育つけど、ハウス内の空気が『どんより』するのがね」。終始、ロジカルに話をされる佐伯さんだが、根底にあるのは、快か不快か、だ。
「栽培する人が機嫌ようしてないと、野菜は言うこと聞いてくれへんしね」。
もうひとつ、大切な農家のお役目がある。それは地域の祭との関わり。代々、北野天満宮の「ずいき祭」の神輿(みこし)の装飾に使用されるずいきや麦を栽培してきた。この祭が特別なのではない。元来、五穀豊穣を祈念する祭りにはその土地の野菜が奉納される。日本の伝統文化の維持に農家の存在は欠かせないのだ。
「農家の役割は、大きいですね」。
最後、自らの役目を再度確認するように佐伯さんは語った。

京やさい 佐伯
TEL
075-463-6627
ACCESS
京都市上京区御前通仁和寺街道下ル西上之町254-4
最寄りバス停
七本松出水、大将軍
営業時間
9時~18時
定休日
日・祝