だって、猫、かわいいじゃないですか。
「この店は私の部屋であり、脳内です」。そう話すのが、前述のラ・パンセの斜向かいにある古書店・紫陽書院の店主、鎌倉麻里さんだ。
店内に足を踏み入れると、天井までうずたかく積まれた本はイメージ通りだ。しばらくして、店内に古書店特有のほこりっぽい匂いがないことに気づく。どの本も清潔で手入れが行き届いている。

男性主流の古書業界で
おんなの感性を生かす。
女性の古書店店主は珍しい。さらにいえば二代目や三代目が多いなか、自身が起業した点でも鎌倉さんは少数派だ。
「新刊書店や洋書屋ほか、いろんな店で働きました。20年ぐらい前に『好きな本を仕事にしたい』と一念発起。あまり深く考えてませんでしたね」。
古書店を始めてわかったのは、古書は男社会という厳然たる事実だった。「ラーメン屋のスープと同様に、古書の仕入れは企業秘密」として、おんなゆえの創業の苦労を鎌倉さんは語りたがらない。
古書店を初めて約20年。最初は店舗中心であったが、最近は古本まつりを中心とする即売会にも力を入れている。良書ばかりを置く紫陽書院が得意とするジャンルは人文、漢籍、歴史、考古学、美術、思想、写真集、絵本、そして猫ものだ。
「だって猫、かわいいじゃないですか」。鎌倉さんは女性らしい感性を存分に生かして古書を扱う。紫陽書院のどの本を手にしても気持ちがいい。本を磨く雑巾と消しゴム、値付けの鉛筆が仕事道具だ。
「本が好きなんです。だからほこりをかぶったままや、扱いが雑なのはイヤ。古書だからといって、汚い手で触らんといて欲しいワ(笑)」。

万感を棚と値札に込めて
濃密なコミュニケーション。
古本屋は本の価値を決める仕事、と鎌倉さんは教えてくれた。
「市場の相場をにらみつつ、『自分はこの本がおもしろいと思うかどうか』で値を定める。その意味がわかる人だけが、その本を買っていくんです」。
鎌倉さんは、気になる客が来店するとその目の動きを追いかける。
「棚の背表紙に走らせる目線で、どのレベルの古書を求める方はわかります」。
売り手の万感は棚揃えと値札の数字に込める。言葉を交わさなくても、本を介して、店主と客の濃密なコミュニケーションが成立するのが古書店なのだ。
本の棚差しの位置が変わればすぐにわかる。訪れた人から「こんな本あったんや」との声を聞くのがうれしい。そんな鎌倉さんが守る紫陽書院に、ぜひ足を運んでほしい。並んだ本で彼女の脳内をたどれば、知的発見がきっとあるはずだ。
日本で年間に発行される新刊は7万点以上。ほとんどが消えていくが、古書店は残すべき書籍をこの世に残し続ける。
「書物文化を受け継いでいる自負はあります。次に読む人に本をつなぐ、本の橋渡しをしているんだ、と」。

紫陽書院
TEL
075-702-1052
ACCESS
京都市左京区一乗寺西水干町15-2ファーストコーポ白川1F
最寄りバス停
田中大久保町
営業時間
平日12時~18時半
定休日
不定休