ふわふわの食感に違わぬ優しさ。
時おり、ガシャンガシャンと織機の音が聞こえる。北野の商店街から細道を北に上がった西陣の下町は、マンションや一軒家に混じり合うように、織物
の町工場がまだ少し残っているところ。この一角に、佐摩良さんは1年半前、シフォンケーキの専門店をオープンした。そのふわふわしっとりとした食感と、彼の優しい心持ちが、この町と暮らす人々を暖かく包み込んでいる。
スイーツ大好きな少年が惚れ込んだしっとりシフォン。
子供の頃から甘いものに目がなかった佐藤さん。アルバイトで貯めたお金で、和菓子やケーキ、パフェなど、スイーツを求め食べ歩いた。そんな筋金入りの甘いもの好きが、ずっと忘れられなかった味がある。小学生のとき家の近所にあった小さなケーキ屋さん、「エルム」のシフォンケーキだ。
「当時はシフォンケーキってそんなになかったから衝撃でした。いつのまにかエルムがなくなって、その後いろいろシフォンを食べましたが、同じものには出会えなかった」。特にバナナシフォンのしっとりふわふわした食感、口一杯に広がるバナナの風味が、大人になっても深く心に残っていたのだそう。「滋賀県でエルムの息子さんが引き継がれてると聞き、十数年ぶりにすぐ食べにいきました。“これだ! ”と思いましたね。でも、このシフォンは京都にはない。じゃあ自分で作ろう、そう思いました」。
ふわふわの中に、ぎゅっと詰まったこだわりと優しさ。
シフォンケーキの専門店を始めた佐藤さんだが、以前は介護福祉士として13年勤めた経歴の持ち主。「前の職場の皆からは絶対辞めないと思われてたみたいです(笑)。凝り性な性格もあって、介護技術だけは誰にも負けないと思ってましたね」。介護職こそが天職だと周囲に思わせていたものとは何か。それはきっと彼の優しさに他ならない。
「この辺りはお年寄りや子供が多いので、食べきれるサイズにカットしてます。苦手な人がいるので、生クリームは別添えにしてるんですよ」。原料は国産品や有機のものをできるだけ使い、無添加で。バナナシフォンは、バナナ本来の豊かな香りを引き出すため、必ず完熟状態にしてから作る。美味しさへの探究心から生じる硬派なこだわりと、表情や口調からもすぐに感じ取れる彼の優しさ。2つが相まって生まれたのが、この店のシフォンだ。「子どもがお小遣いを握って買いに来れるようにしたかった」。可愛いデコレーションのシフォンが驚くほど手頃な値段で提供されているのも、この店がこだわりと優しさであふれている証だろう。
縁あって習得した、京都の自家焙煎珈琲の名店「ガロ」のサイフォン珈琲。地元のお年寄りがシフォンとともに本格コーヒーを味わい、お喋りを楽しむ。その傍らに、優しい表情を浮かべるマスターのいる空間が、最近の西陣のイメージだ。
りょうさんのシフォンケーキ
TEL
075-462-4777
ACCESS
京都市上京区六軒町通一条上ル若松町346-1
最寄りバス停
今出川浄福寺、上七軒
営業時間
10時~19時
定休日
月・火・水・木