「うちのオモニの味やな」が うれしい
その日は平日。なのに開店するや続々と客が訪れ、「和み鉄板きた」の店内は早々と満席に。カウンターに目を向けると、鉄板の前で忙しそうに立ち回る店主、喜多和彦さんの大きな背中が見える。

夢を見失った20代。
10年ぶりの再会が人生を変えた
小学生まで京田辺市、中高は宇治市で育った喜多さん。大阪商業大学にはスポーツ推薦で進学。種目は小学生から長く打ち込んできた野球だった。入学してすぐに、上級生たちを差し置いてベンチス入りするほど期待されたが、肩を壊してしまってからは状況が一変した。「それからは自分でも腐ってしまって」。
野球選手の夢は絶たれ、卒業後も職を転々とした。そんな時だ。高校時代の野球部の先輩が店を始めたという話を聞き、祝いのために訪れた。その店が、百万遍にあった「キッチャン」だった。
お好み焼きと、当時はまだ少なかった韓国家庭料理の両方が味わえる店。何を食べてもおいしい。10年ぶりに会った先輩とそのオモニが作る「キッチャン」に、魅了された。客として通ううちに、働きたいと願うようになる。29歳のときだった。
「最初は『飲食店はそんなに甘くない』と断られたんですけど、行くたびにバイトさせてくださいとお願いしたら、皿洗いで入らせてもらえることになって」。
会社勤めをしながら週に3回、店に通った。活気のある繁盛店で過ごす時間は、楽しかった。半年が過ぎた頃、正式に憧れの店への入社が決まった。
感謝の気持ちとともに、
店の味を守っていく
「キッチャン」のマスター、金義広さんは喜多さんの野球部の先輩だ。高校の夏休み、忘れられない思い出がある。喜多さんの母が入院し、昼の弁当がない喜多さんを心配した金さんが、自分の母親(オモニ)に喜多さんの弁当を作ってもらい、持ってきてくれたのだ。
「心遣いと、あのオモニの味が忘れられなかった。約十年ぶりに再会してお礼を言ったら、マスターもオモニも、まったく覚えていなかったんですけど(笑)」。
尊敬できるマスターのもと、11年間「キッチャン」で働いた。調理場でオモニの味を体得。そして、40歳で独立を決める。
「『好きなことをしたらいい』。独立のときにそうマスターは言ってくれたんですけど、先輩のオモニの味を守ることが僕にとってのやりたいことでした」。
職を転々として、人生の道標を失ってさまよっていた自分に、生きる道を教えてくれたマスター。独立した後もマスターとの交流は続いている。2010年のオープンから、マスターは必ず年に1回は顔を出してくれる。
「そのたびにマスターは『うちのオモ二の味やな』」と褒めてくれる。店をやっていて、それが一番、うれしいですね」。
兄弟愛にも似た不思議な絆が、今も喜多さんを支えている。伏見桃山のお好み焼き屋は、今日も活気にあふれていた。

マスターのオモニから教わったジャガイモ入り のすじ煮込み748円もファンの多い人気の品だ。
和み鉄板 きた
TEL
075-622-0753
ACCESS
京都市伏見区西大手町315-4
最寄りバス停
西大手筋
営業時間
17時半~翌0時 (火~土曜フード23時 L.O. 日曜フード22時 L.O.)
定休日
月