毎回が真剣勝負
着物の帯揚げで、しゃりしゃりとした独特の上品な感触を知った人もいるだろう。小鹿の背中にある白い斑点を模した柄は「鹿の子」と呼ばれる。「京鹿の子絞」は千年以上の長い伝統を誇る。
絞り工房にしむらの西村恵司さんは、京鹿の子の伝統を伝える三代目だ。

絞るも染めるもハード
過酷な伝統工芸の仕事
京鹿の子絞の最大の特徴は「疋田絞(ひったしぼり)」と呼ばれる絞り染めの技法だ。糸で布を強くくくり、締めることで染色されない部分を作りだす。また、布地にしわやくくり粒を作って、立体感をもたせる。
今回、西村さんから、染める前の布を見せてもらって驚いた。3ミリ程度に隆起した絞り目がびっしり並んで、硬質ゴムのように布が縮み上がっている。
「職人さんが、絞り目を一粒ずつ綿糸でくくっています。一反をくくるのに約1年以上かかります」。
ちなみに一反とは幅は約36センチ、長さは約14メートル、気の遠くなる作業だ。
そして、職人さんが絞ったその布を、染め上げるのが西村さんの仕事だ。
「絞り染めでは、絞った生地をほどく作業が特にしんどい。毎日、多い時で何十反と染めていますが、ほどく作業はカがある男性じゃないと難しいですね」。
さらに、温度が高くないと、生地が破れやすくなる。夏でも、工房はボイラーを炊いての作業だ。「毎日が蒸し風呂状態です」と、西村さんは淡々と話す。

他にない技術ゆえ、ファッションのハイブランドからも声がかかる。
機械でも染められる時代だから
人の手が生む芸術品を
京鹿の子絞の工房として昭和初期に創業した「絞り工房 にしむら」。三代目の西村恵司さんは高校生のときから手伝いをしていたが、大阪の大学に進学し、その後は薬品関係の会社に就職した。
実家に戻ったのは、「人手が足りないから戻ってきて欲しい」と父から懇願されたから。25歳で絞り染め職人となった。
それから32年経った今、「毎回が真剣勝負」と真っ直ぐな目をする。前述したように、絞り目をくくる職人は膨大な時間をかけている。その労力を、西村さんの染めの失敗が台無しにする可能性がある。
「イメージ通りに染まらず、悶々とする日もあります。何十年やっても、会心の出来は年に1回、あるかないかです」。
職人としての自分に厳しい視線を注ぐ西村さん。最近は機械を使った染色も増えつつあるが、京鹿の子校に限ってはすべて手作業。くくりの加減やその日の気候、ひとつひとつの要素に気を配る。
「機械でも染めが可能になった今の時代だからこそ、人間の手だけで作られる京鹿の子絞はすごいと感じるんです」。
生地に関わるすべての職人に想いを馳せながら、今日も染め続ける。西村さんが続ける理由は「この仕事が好きだから」。
「京鹿の子絞をみんなに知ってもらい、大事にしてもらえたらうれしいです」。
人の手が生む芸術品。生地に浮かぶ白い斑点模様が、より愛おしく見えた。

絞り工房にしむら
TEL
075-821-0640
ACCESS
京都市下京区大宮松原下ル上五条町392
最寄りバス停
大宮松原
営業時間
10時~19時
定休日
不定