優れた木は勝手に大きくなる
格子戸の玄関に下げられた「村田画廊」の文字が目を引く。和風建築に付属する展示室、白い壁には絵画がずらり。ここ村田画廊は、絵画専門のギャラリーだ。

鑑賞者によって
価値が変わる「絵画」
画商の村田一雄さんは滋賀県大津市で生まれ、3歳から京都に。高校卒業後は、宝石加工の職人だった父の影響で宝飾の道を志した。
20歳で東京の銀座にあった老舗の美術商に弟子入りする。早朝から深夜12時まで働く厳しい丁稚奉公(でっちぼうこう)で出会ったのが、店で扱っていた「絵画」だった。
「宝石は知識を身につければ誰でも価値を評価できるようになるけれど、絵画は違います。値段が高い作品がいい作品とも限りません。作品の価値は鑑賞者に委ねられる部分が大きいのです」。
村田さんはそんな絵画に魅了された。書物で知識を深めると同時に、審美眼を養うため、丁稚奉公で得た給料をはたいて美術品を買い集めた。人生初購入は21歳のとき、6号の小さな洋画だった。
銀座での13年間に及ぶ修行を経て、京都に戻った村田さん。34歳のとき河原町竹屋町に「村田画廊」をオープンした。扱う絵画はすべて、村田さんが価値を見出したものばかりだ。村田さんは特に、日本画の現代作家に力を入れる。
「ゴッホが死後に高く評価されたことは有名です。美術品を扱うという意味では、評価が確定した作品のほうが扱いやすいという考えもあります。でも私は、現存する作家に絵を描いてもらって、商売をしていきたいんです」。
そんな村田さんにとって、新人作家の発掘は重要な仕事のひとつだ。さまざまな美術展に足を運び、気になる作家は3年ほど追いかけ続ける。その後、候補に残った作家と実際に会ってから、依頼をするか最終的に判断する。

選んだ作品に共感してくれる。
それが何よりも嬉しい
「絵画は、その作家の一部です。画廊と作家は長く付き合っていくから、人間として芯があり、一貫性のある作家がいい。描く絵に輝きがあっても、絵と人間が乖離した作家と付き合うのは難しいです」。
銀座にいたときから、50年の付き合いになる作家もいる。目先の利益に左右されない忍耐力も画商に求められる素質のひとつだ。村田さんは、作家から創作のアドバイスを求められることもある。
「でも『村田が作家を育てた』と言われると、それは違います。私はなにもしていません。優れた木は勝手に大きくなるんです」。そう言って笑った。
松ヶ崎には2008年に移転してきた。自分の価値観に鑑賞者が共感してくれる瞬間に、今も心からの喜びを感じる。
村田さんは自らを「画商」と名乗る。村田さん曰く、画商とは「今の時代を生きる作家の価値を見出す人」だ。現代の新しい価値観を作家と共に創る。そんな画商もまたある種のクリエイターなのだと、住宅地の小さな画廊で知った。

村田画廊
TEL
075-703-8960
ACCESS
京都市左京区松ケ崎泉川町18-4
最寄りバス停
松ヶ崎駅前
営業時間
10時~18時
定休日
火・祝(展覧会中は無休)