この出汁が好きだから
常連客だった店主が惚れ込む
ほんのり甘い出汁。
カテゴリーで分けるなら「大衆的なうどん屋さん」で間違いない。しかし、そこはやはり京都。旧仮名遣いで書かれた木の屋号看板といい、今ではあまり見かけなくなったすりガラスといい、歴史の深さが店構えからにじみ出ている。
「50年の常連さんはぎょうさんいてくれはります。たいてい入社したころから退職まで通ってくれて、今日で最後っていう日は必ずあいさつに寄ってくれはりますね」。若女将の法子さんによると、おじいさんが店を始めて今年で82年。その間ずっと烏丸丸太町界隈の勤め人の胃袋を満たしてきた。多いときには出前要員だけで3、4人の従業員がいたそうだ。
何年でも通いたくなる味。この店の何がそうさせるのか、もちろんお出汁だ。甘めに仕上げたうどん出汁は優しくて上品な、この上ない安心感がある。カレーうどんであろうが衣笠丼であろうが、この出汁こそが味の決め手だ。

上品がこっそり見える
名物キーシマ
そして、40年以上も不動の人気を誇るメニューが「キーシマ」。その正体は、自家製の中華麺を自慢の出汁でいただくシンプルなもの。具材はネギのみだが、決してぶっかけたりせず、別の小皿に盛られているのが京都らしい。かけそばをシマという隠語で呼んだことから、黄そば(中華そば)のシマで「キーシマ」と名がついた。往年の常連客のわがまま注文で生まれた裏メニューが、いつしか店の名物にまで出世した。細麺なので、すすりあげた麺に出汁がたっぷりとからまる、これがたまらない。山椒や七味を入れるとさらに上品な味わいになる。
盛り付け、色合い、品の良さが、出しゃばらずにこっそりと隠れている。

ある常連客の
恋が守った店の味
現3代目の川畑宗生さんも、かつてはキーシマを好んだひとりの常連客だった。多くのサラリーマンと同様、この出汁を愛し、家族の温かみが感じられるこの店の雰囲気を愛した。ただ、川畑さんがその他大勢と違ったのは、店の娘さんと恋に落ちたという点だ。「気ぃついたら後ろにいたって感じですね」。そう言う宗生さんの隣で若女将が照れくさそうに笑う。実際は、「あんたらどうすんのや」という大女将の一言で宗生さんは結婚を決意。以来、先代の下について働き始めて10年ほど経ったころ、先代が、がんを患う。闘病中の義父から自家製麺や出汁のとり方を教え込まれた。
「聞いた通り習った通りでずっとやってます。自分が気に入らんかったら変えるんやろけど
、気に入って通ってたわけやしね(笑)。この味や思てやってます」。
にこやかに話してくれる3代目から、大仰な気構えは見られない。自然なやわらかさを持つお出汁の味は、川畑さん夫妻の、偉大なる現状維持のなせるわざだ。「うちは昔から女は出えへんねん」といって、美人の若女将が最後まで撮影させてくれなかった。

やっこ
TEL
075-231-1522
ACCESS
京都市中京区夷川通室町東入る
最寄りバス停
府庁前
営業時間
11時半~19時 土曜は14時半まで
定休日
日、祝