お客さん同士がつながっていくのを見るのが喜び
西院駅から少し西へ歩いた四条通沿いのビルの地下。薄暗い階段を下りた先に、隠れ家のようなぽっかりした空間が広がる。
「ちょっと入りにくいかもしれませんが、帰宅前にふらっと寄ってくれるご近所さんが多いんです」。照れ臭そうに話す千歳(せんざい)勇介さんは、自分自身のことを「本当は会話が苦手」と分析する。
しかしそんな彼だからこそ、作り出せる心地よさがある。

大切な場所を残したい。
その一心で古巣のバーへ
美術大学への進学を機に、大分から京都へ。「絵が得意だったから」と軽い気持ちで入学したものの、まわりは自分より上手な人ばかり。絵では勝負にならないと早々に見切りをつけ、新たに志したのは音楽。絵筆をサックスに持ち替え、バンド活動に明け暮れた。
「あわよくばプロに」。そんな気持ちから卒業後も定職に就かず、バイトで生活費を賄いながら夢を追うも、情熱は年々薄れ、気づけばバンドは楽しい趣味に。結婚を機に就職をしてみたが、ストレスフルな職場で心のバランスを崩した。そんなとき、行きつけのバーから連絡をもらう。 「店長として戻ってこない?」。学生時代から通うなじみのバー。「ひとり飲み」という楽しみを知った場所であり、過去にも働いたことのある古巣からの誘いだった。
「千歳くんが戻らないなら店を閉める」。その言葉に心が揺れた。あるのが当たり前と思っていた拠り所がなくなるかもしれない。「シンプルに『さびしい、嫌だ』と感じました」。

見知らぬ人同士をつなぎ、
一期一会の時間を見守る
こうして千歳さんは「バー オーバーグラウンドB1F」に店長として舞い戻った。「今思うと、閉店は僕を呼び戻すための口実だったような気もするのですが」と笑う。
バーの醍醐味は年齢も属性も関係なく、お酒を介して楽しい時間を共有できるところにある。管理職らしきサラリーマンが、就活に疲弊する学生の愚痴を聞いていたり、店に置かれた古いレコードを肴に音楽談義に花が咲いたり……。偶然居合わせた人たちが自然とつながり、グラス片手に盛り上がる。そういう光景を見るのが好きなのだ、と千歳さんは言う。
「所在なさげな人にはこちらから話しかけることもあります。きっかけを作ったら、あとはそっと見守るのが僕の役目」。 バーの何たるかを教えてもらった大切な場所で、今は一期一会の出会いを見守る立場に徹する千歳さん。店の壁にはコロナ禍をきっかけに始めたウクレレが飾られている。音楽との向き合い方も随分変わった。
「何事につけ、余計な力が抜けました。仕事も音楽も、自分のリズムで無理せずやっていこうと思います」。 気負いなくカウンターに立つ千歳さんだからこそ、皆リラックスしてこの場に身を任せられるのだろう。地下の小さな宿り木バーに、今宵も多くの人が集う。

BAR OVERGROUND B1F
TEL
075-313-5348
ACCESS
京都市右京区西院坤町61 都興業ビルB1F
最寄りバス停
四条中学前
営業時間
17時~翌3時
定休日
無