生涯、インディペンデント
戦前に建った古い京町家を、ひとりの陶芸家が2年半をかけて改築したアトリエ兼ギャラリー。これまで見てきたどんな再生京町家にも当てはまらない空間芸術を前に、俄然、興味がそそられた。一体どんな人物なのか。
漆芸家の息子として生まれ
自分でつかんだ陶工の道
珍しい名前からして凡庸からは遠い。冨金原塊(ふきんばらかい)さんは京都の山科育ち。父は日展作家の漆芸家だ。「自分のやっている漆芸は一代でいい。お前は違うものを探せ」と言う父。その頃、工作や描画に熱中していた冨金原さんは、手を動かすのが好きで伏見工業高校(元・京都工学院高等学校)に進学した。金属工芸はおもしろかったけれど、いわゆる〝機械作業〟はしっくりこない。成績は学年上位で、教師には大学進学を勧められたが、その先の将来を考えると違和感があった。
「勤めたくない。ネクタイ締めたくない。満員電車乗りたくない。会社勤めをしている自分が、想像つかなかった」。
振り返ると漆を手がける父親の関係から、日常的に作家ものの食器を使っていた。自分にとって、器は感動を与えてくれる最も身近なクラフトだった。
18歳で陶芸家の登竜門、職業訓練校の受験を志願した。 21歳で信楽の窯元に弟子入り。23歳で永源寺に移り、そこからは6年間、ろくろ師として朝から晩までひたむきに陶芸に向き合った。
どんなときも、父の威光に頼ることはなかった。「生涯、インディペンデントでありたい」。今も昔も、コネクションというものにまるで興味がない。
葛藤の先に生まれた、
動物のブックエンド
独立は30歳と決めていた。ちょうどその頃、古い京町家と出会い、気にいって改築することに。まずは、作業風景が見えるアトリエと作品を展示販売するショールームから始めた。22年前の当時は先駆的だった。その後も隣の棟に拡張を繰り返しながら理想の空間づくりは展開され、完成どころか、今なお進化中という。



「人がやっていないことを、したい」。
その心意気は本業の陶芸も同じだ。転機はコロナ禍。冨金原さんはここ数年、本来は料理の脇役であるはずの器がブームとなっていることになじめず、陶芸家として葛藤を感じていた。そして読書が好きな自分と向き合うなかで動物を題材にしたブックエンドを思いつき、創作を始めた。ヘラジカやクジラなどをモチーフに、陶製のブックエンドを多数発表してきた。作品を通じて本棚を楽しい場所にすることが目下の夢だ。

取材終り、空間に圧倒される編集部に「自分の周りに『これでいい』はない。『これがいい』しかないんです」と冨金原さん。50歳を過ぎて「いつ死んでもいいほど満足している」と笑えるのは、妥協なしで好きなものに囲まれているから。誰も真似できない境地へのたどりつき方を、教えてもらった気がした。
Studio Enju/Gallery & Craftshop PolarSta
TEL
075-468-3276
ACCESS
京都市北区紫野郷ノ上町41-14
最寄りバス停
千本鞍馬口
営業時間
11時〜18時
定休日
不定休