歌詞をハートに入れて出す。それが歌手の仕事。
緑豊かな宝ヶ池からほど近い、京都乗馬クラブの一角。馬場を見下ろしながら、白い階段を登って扉を開くと、異世界にトリップしたかのようだ。カウンターの止まり木で、カウボーイたちが酒を飲んでいそうな雰囲気すらあるレストランバー。ここがホンキートンクだ。
店の奥では、ステージが歌い手を待つ。創業は1970年、京都有数の老舗ライブハウスとしても知られる。

汗とグリースの匂いがする
肉体労働者のための音楽
大柄でカウボーイハットとジーンズが似合うボウ・ヤタニさんは、1947年生まれ。16歳でカントリーを始めた。大学生が音楽を先取りする時代に、同志社大の同志社マジカルプレイボーイズに所属し、カントリーにのめり込んだ。
「カントリー以外の選択肢はジャズ、ハワイアン、タンゴだけでした。ロックやポップスはまだなかった。カントリーから派生したのがロカビリー。ギター一本で始められたのがフォーク。なお、その後フォークは一世を風靡しますが、創成期のメンバーは当時の仲間ですよ」。
カントリーのどこに魅かれたのか。
「西部開拓期、アーリーアメリカンへの憧れがありました。 『駅馬車』のジョン・ウェインや『ヴァージニアン』のゲイリー・クーパー。かっこよかったです」。
卒業後、カントリーで生きると決めたヤタニさんは、演奏のできる場所が欲しいと、23歳のときにホンキートンクを開店。経営のかたわら、関西のライブハウスを回って音楽活動にのめり込む。
1973年、単身渡米。2年後に再度アメリカに渡り、ライブハウスに通い、現地のミュージシャンとのセッションで本場のカントリーに触れる。
「日本で一般的なカントリーは、いい大学のボンボンが楽しむ音楽。うそっぱちだと思いました、かくいう自分もその一員だったわけですが(笑)。アメリカのカントリーは、汗とグリースとセックスの匂いがする。季節に応じて仕事を渡り歩く肉体労働者、低所得者層のための音楽。乱暴な表現ですが、刑務所から出てきた男が聞きたがるような歌なんです」。

カントリーの真意を、
自分の言葉で伝えていく
以来カントリー一筋で、プロとして音楽活動を続けるヤタニさん。還暦を過ぎて、曲のとらえ方が変化したと話す。
「特に、歌詞が気になります。なにを歌っているのか、きちんと伝わらないと意味がない。歌詞をハートのなかに入れて出す。それが歌手の仕事です」。
ジミー・ロジャースの『Peach Pickin’ Time In Georgia』の英語の歌に、ヤタニさん自身の言葉で訳した日本語を交えて歌ってくれた。挿入されるヨーデルが印象的なカントリーの名曲で、「ジョージア州で桃の実が熟れるころ、女の子の尻を追いかけようぜ」、そんな不埒な歌詞だ。
年季の入った男の声は、どんな桃よりも甘い。心に浸みてくる。


ホンキートンク
TEL
075-701-8015
ACCESS
京都市左京区岩倉幡枝町1040
最寄りバス停
岩倉操車場前
営業時間
13時〜23時
定休日
祝日以外の水曜日