もっと! ハンケイ500m
「もっと! ハンケイ500m」は、『ハンケイ500m』本誌で特集したことのないバス停や地下鉄駅の周辺地域をフィーチャーし、多様な価値観を持った人を紹介するコーナーです。今回は、京都市営地下鉄東西線 山科駅から徒歩15分、東野駅から徒歩11分ほどの場所にある「コジーハウス」店主の松谷吉孝さんにお話を伺いました。
宝石のように並ぶ、色とりどりのジャム
地下鉄東西線 山科駅から住宅街を抜けた公園のそば。イングリッシュガーデンを思わせる緑豊かな小さな庭先にコジーハウスの看板が見える。

ガラス張りのドアを開けると、店内にはバロック音楽が流れ、壁にはゆっくりと時間を刻む大きな振り子時計。昭和モダンを体現したような空間で、雑誌や単行本を読みながら、客が自分の時間を過ごしている。

店の中でひときわ存在感を放っているのが、キラキラと宝石のように並ぶ瓶入りの自家製ジャム。春に顔を揃えるのは、あまおう苺、じゃばら、ネーブルオレンジ、ルバーブ、レモン……。旬の果実の中には、店主の松谷吉孝さんが探しあてた、馴染みのない柑橘類もある。初夏からは日向夏や杏、南高梅にブルーベリーが主役になる。

喫茶店をするならモーニング。
モーニングなら手作りジャム
京都の老舗旅館の息子として生まれた松谷さんは、同志社大学を卒業後、箱根の「富士屋ホテル」で働いた。1878年創業、明治の薫り漂うその名門ホテルには多くの外国人客が滞在し、朝食には決まって自家製のジャムが添えられていた。洗練されたホテルの朝食。その光景と豊かな味わいは、若き日の松谷さんの記憶に深く刻まれることになる。

時を経て京都に戻った松谷さんは、親戚が住んでいた家の庭に新たに建物を建て、自営業の道を志す。「当時は喫茶店が流行っていて、みんなが朝食のモーニングセットをよく食べました。モーニングにはやはり手作りジャムがなくてはね」。多くの店がコーヒーとバタートーストのモーニングを提供するなか、松谷さんはホテルの「手作りジャム」を思い出し、自身の店で出したいと思った。1980年、秋に店のオープンを決め、その半年前の春から、松谷さんは大量の苺とオレンジを仕込み、2種のジャムを作り始めた。以降46年、ジャムのおいしさは評判になり、いまやコジーハウスの果実ジャムは年間16種。ジャムを使ったケーキやカレーも人気の店になった。

営業後は、ほとんど毎日仕込み
品種改良もあり、時代とともに果実の個性は変わるが、松谷さんの好みは少し酸味のあるジャムだ。「りんごジャムなら酸味のある紅玉。柑橘類も流行りの糖度が高いものでは味が締まらない。自分のジャムに合う果実をいつも探しています」。松谷さんは常にアンテナを張って、ほどよい酸味のある無農薬の果実を探しあてる。それを全国の生産者から直接購入し、試行錯誤で自分好みの味に仕上げるのだ。ジャムはとろみ加減が特に難しい。うまくいったかどうかがわかるのは、瓶に詰めてから1日後だ。「冷蔵庫から取り出して蓋を開ける時は、今でもドキドキします」。口が広い英国製の専用鍋で、丁寧に炊き上げるジャムは、新鮮な旬の果実を使うほど、おいしくて失敗も少ないそう。
「ときどき『ジャム用にどうぞ』と売っている果物があるでしょう? 生で食すには適さないけれど、ジャムにならできるような。それではジャムはおいしくない。ジャムにしかできない果実ではなく、ジャムにしたくなるような新鮮な果実を使わないと」。旬の時期にすぐ調理するので、営業後はほとんど毎日ジャムの仕込みだ。週1の定休日もジャムづくりで終わることもある。「いや、だってしょうがないしね」。旬の果実を手に持ち、松谷さんは大きな笑顔でそう語る。

あまおう苺のジャムをいただいた。甘すぎず、素材の味がぎゅっと詰まってみずみずしい。オープン以来、半世紀近い歳月が流れた今も、コジーハウスのモーニングセットには、あの日の情熱が詰まった美しいジャムがある。きっとこれからも、松谷さんの上品な果実ジャムのラインナップは、増え続けるに違いない。

桜並木が4km続く、山科疏水でお花見も。


水路に沿って続く桜のトンネルは、ゆっくりと景色を眺めながらお散歩するのに最適です。
桜の撮影スポットとしても有名で、カメラを持って、春の京都を満喫してみてください。
連載シリーズ「MOTTO! ハンケイ500m」とは?
京都市交通局による、地下鉄・バス利用促進の取組「MOTTO!」。後述の『「3つのもっと」を皆の「モットー」に』をコンセプトに、「市バス赤字系統の利用促進」、「地下鉄とバスを組み合わせた移動への誘導」を重点としたさまざまな取り組みを展開しています。
地下鉄・バス「MOTTO!」利用促進プロジェクト とは
https://www.city.kyoto.lg.jp/kotsu/page/0000342840.html
「3つのもっと」
- もっと周辺部のバスに乗ろう!
- もっと地下鉄を組み合わせて移動しよう!
- もっと沿線地域を活性化しよう!

そんな「MOTTO!」と、京都の多様な価値観を「バス停」を起点に発信してきた『ハンケイ500m』がコラボレーション。「MOTTO! ハンケイ500m」と題して、月1本のWEBコンテンツを発信していきます。
「3つのコンテンツ」
- もっと!ハンケイ500m!
『ハンケイ500m』で特集したことのないバス停や地下鉄の駅を中心に、多様な価値観を持つ人を探索し、ご紹介します! - あの日の登下校
「学生の街」京都ならではの学生グルメを紹介するシリーズ。地下鉄・バスに乗って登下校したあの日の思い出。エピソードを交えて、沿線地域の魅力を伝えます。 - 京都のマイナ~な旅
京都には、まだまだ知られていない素敵なスポットがいっぱい。マイナーな路線・沿線地域をまわり、文化人やアーティストがその魅力をご紹介します。
地域情報誌『ハンケイ500m』に収まりきらない京都の知られざる魅力や、地下鉄・市バス利用で出会える素敵な人やスポットなどを発信。もっともっと、京都の魅力を楽しめる連載シリーズです!
コジーハウス
TEL
075-592-4555
ACCESS
京都市山科区竹鼻地蔵寺南町39-2
最寄り駅
山科駅、東野駅
営業時間
9:00〜18:00
定休日
木曜日

この記事を書いた人
佐藤友美(さとゆみ)
PROFILE
ライター・エッセイスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経て、ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)『書く仕事がしたい』(CEメディアハウス)『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)など。2025年夏より、京都と東京、2拠点を行き来する。
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