ドットは内なる言葉の代わり
ドットや曲線の反復により、独自の世界観を表現する現代美術作家・大和美緒さん。国内はもとより、海外の画商やコレクターからも注目される際立った作風は、もがき苦しんだ末に見つけたものだ。
美術を一生の仕事と信じ
京都の芸術大学へ
母の実家は彦根で蘭農家を営んでいる。
そこでは、蘭が並ぶビニールハウスが遊び場だった。父の転勤で4歳から長野へ引っ越す。小学6年のときに近江八幡市に戻ってきたが、友達とコミュニケーションを取ることが難しく感じた。
そんな中、図工の時間に思いがけないことが起きる。「絵の上手な転校生がいる」と聞きつけた他のクラスの子たちが、大和さんの絵を見にやって来たのだ。「絵のおかげで社会に溶けこめた」。そう感じた最初の出来事だった。
中高とずっと絵を描き続けた大和さんには芸術の道以外は考えられなかった。反対する両親を説得し、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)へ。そこで名和晃平氏の作品に感銘を受け、氏が立ち上げたばかりの創作拠点「SANDWICH」を手伝うことに。
「心が動くこと、夢中になれることを必死で探す時間でした」。芸術家の卵にとって、かけがえのない経験だった。
蘭の温室で見つけた
自分だけの表現
卒展に向けて「自分の作品」と向き合うことになり、壁にぶち当たった。「カンバスに絵を描く」ことが、どうもしっくりこないのだ。そこで思いついたのが、学校のアトリエの壁を「体の内にある言葉」で埋め尽くすこと。入口に近い壁からシャーペンで書き始め、半月で言葉が尽きてからは、同じ言葉を繰り返し書いていった。

大和さんは最初にここを見たとき「理想的なアトリエ」と感じたそう。
オープンアトリエなどのイベント時以外は基本的に非公開。
3か月後に完成した作品に手ごたえを感じ、大学院へ進学。しかしそこではさらに大きな試練が待ち受けていた。
ゼミでは活発なディスカッションが行われ、大和さんも自身の作品について「なぜその言葉を書くのか」を追及された。しかし言葉は自分の内から湧き出たもの。他人に話したくはない。悩んだ大和さんは試行錯誤を経て、ついに「言葉の代わりにドット」を用いた作品を生み出す。それが初期の代表作「RED DOT」だ。
「行き詰ったとき、蘭農園の鉢に生えた苔を見て思ったんです。小さな緑の粒々が、育成条件のいい方向へ手を伸ばすように広がっている。生きようとした結果、この形になったのだと」。その様子に着想を得、軸となる作風が生まれた。
以前は一人で作っていたが、今はスタッフと共に作業をする。その理由は「一人だと『イメージする作品』はできても『イメージする展覧会』は完成しないから」。大和さんは、たくさんの作品をつくり、多くの人と関わることができる展覧会という表現の場を大切にしている。
「心からいいと思うことで生きていきたい」。その強い思いが、今も彼女を衝き動かしている。

2025年の2月に開催された、初の韓国での個用の様子。真ん中に見えるのは、血液をモチーフにし、複雑な世界に生きる私たちが共通して持つ生命の営みを描く試み「under my skin」。ギャラリー空間を無限の宇宙空間に見立て構成した。
Photo by Hyogo Mugyuda

Phptp by Hyogo Mugyuda
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